品田先生
世の中には、嫌われやすい人と好かれやすい人がいる。ボクが前者のタイプの典型だとすると、神戸大学の品田裕先生は後者の代表格である。まず、見るからに温厚である。物腰も柔らかい。歩いている時の「スタスタ」感といい、話すときの「トツトツ」感といい、独特の「間」を持っていらっしゃる。いつも、ボクは、品田さんのようになれたらいいなあ、と思っている。(品田さん、本当ですよ!)
で、昨日と今日と、ボクは品田さんと、研究会などで一緒だった。ところが、ボクは大失敗を犯してしまった。ある人に、品田さんを「同志社大学の品田さんです」と紹介してしまったのである。なんとも失礼な話しである。考えれば考えるほど、失礼な話である。ボクがサラリーマンだったとしたら、お得意様を誰かに紹介するときに会社名を間違うなんてことは許されない。自分の社内でも、所属を間違えて誰かに紹介しちゃったら、お叱りを頂戴するところである。あとで思ったのだが、もし誰かがボクを「青山学院の河野さんです」なんていったら、きっとボクは「この人ボクのことあんまり知らないんだ」と落胆するにちがいない。ましてや、誰かが「慶応の河野さんです」なんていったら、ボクは落胆を通りこして、きっと不機嫌になっているだろうと思う。
というわけで、ボクはそのあと反省しきりであった。それでも、品田さんはニコニコして、ボクのそんな無礼な間違いをやり過ごしてくれた。この辺からして、彼の人格がにじみ出ている。脱帽である。
はて、それにしてもなぜ間違ったのだろうか、と、そのあと自問自答してみた。で、思いついたのは、ボクの頭の中では、品田さんは、京都の人というイメージがあるからだ、ということになった。京都といえば御所、御所といえば同志社。それで、品田さん=京都=御所=同志社というように、ボクの中での連想ゲームが進んでいってしまったのだと思う。それに、現在、同志社には、西澤さん、森(裕城)さんという、選挙や投票行動を研究している優秀な研究者がそろっている。きっと、それも勘違いの源泉になっているかな、とも思った。
しかし、である。品田さんは、あのように一見イノセントにみせておいて、結構交渉上手、依頼上手なのである。実は、今日、電車の中で、品田さんから頼まれていたあることを思い出したので、「あの件はどうなっているんでしたっけ」とボクは聴いてみた。そしたら彼は、その件についてはまったく触れずに、あたかももうひとつ別の件のことをボクが尋ねているというフリをするのである。ボクは、その「別件」の方については、まったく聴いていない。初耳であった。で、ボクが「えっ?そんなの聴いてないですよ」というと、「あ、そうでしたっけ」と、おとぼけになる。そして、例の「トツトツ」感たっぶりに、その別件を説明し始めたのである。
何のことはない、品田さんは、ボクが「あの件」へ言及したことをうまく利用して、もうひとつの「別件」をも、ボクに押し付けようという作戦に出ているのである。そして、それをいかにもイノセントにするところが、彼の凄い技なのである。
今回のところは、一応ごまかして、その「別件」の方について確約するのをさけることに成功した。ただ、今度会う時までには、こちらもいろいろと交換条件を準備しておかなければ、と身を引き締めているところである。