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2006年08月24日

勉強場所

どこで勉強するか、これはかなり大きな問題である。
ボクは、どちらかというと速読することが得意な方なので、授業や会議のためにどうしても読まなければならないものはたいてい電車で読むことができる。座れれば、答案やレポートの採点だって、電車の中でできちゃう。しかし、ボクは、じっくり読みたい本はじっくりと、しっかりノートをとりながら読む。そうした作業は電車の中ではできない。ましてや、執筆という作業は、短い時間しかない通勤の中ではやっぱりむずかしい。
「大学のセンセイには研究室ってものが与えられているんだから、そこで勉強すればいいではないか」と思われるかもしれない。たしかにそれは、正論である。しかし、実際にはこれはうまくいかない。いまのボクの研究室は、ごちゃごちゃいろいろなものが置いてあって、落ち着いて勉強する環境とはいえない。研究室はどちらかというと授業の準備をする場所という位置づけになってしまって、自分の勉強をする場所ではなくなってしまった。
「大学のセンセイは授業のない日は出講しなくてもよいのだから、自宅で勉強すればいいではないか」と言われるかもしれない。これもまた正論であるが、やっぱりそう簡単ではない。だいたい、最近は授業以外の用事が増えて、大学にでかけないでよい日がほとんどなくなってきた。それで、たまに自宅にいられる日があると、いろいろ誘惑のタネがあって仕方がない。たまにウチにいられるんだから、今日は長いジョギングにでもでかけるかとか、今日は凝った料理でもつくるかとか、どうも勉強とは違った方向に関心がいってしまう。
というわけで、ボクはカフェへいって、勉強することが結構多い。まわりの話し声が気にならないのかと不思議がられるかもしれないが、実は、会話の内容を聞き取れない程度の雑音のある方がよく勉強できる。昔のお気に入りは、アークヒルズのスターバックス。あそこは、天井が高く、広々とした感じがあってとっても気分がよい。そういえば、いつかばったりと、ゼミ生の福田さんに会ったことがあったっけ。最近のお気に入りは、横浜中華街の近くのブレンズコーヒー。朝から一日中勉強していることもある。
ボクらは、いつも複数のプロジェクトを同時並行的に抱えているので、ひとつひとつのプロジェクトに、それぞれの勉強場所があると集中できるような気がする。だから、本当は、お気に入りのカフェをいくつも用意しておいて、こっちのプロジェクトの場合はここのカフェ、あっちのプロジェクトの場合はあそこのカフェ、という具合にすれば一番効率がいいのではないか、と思っている。ただ、自宅からの路線が便利で、気持ちのよいカフェというのは、そうたくさんあるものではない。
昔から、小説家とかが「ホテルにこもって執筆をする」とよくきいていたが、なんてかっこいい生活なんだろうとずっとあこがれていた。ところが、この歳になると、自分もそんなことをやるようになってきたのである。数年前、『政治学辞典』(弘文堂)の項目を100以上も頼まれたとき、サンフランシスコのホテルニッコーにとじこもって、いっきに書き上げたことがあった。すでにインターネット時代だったので、書いては送り、書いては送り、という感じで片付けていった。これは、自分にとっては本当にうまくいった経験だった。だから、どうしても仕事を仕上げなくてはならないときの最後の手段として、大切にとってあるのである。

2006年08月20日

Law and Order

ボクは、日本のテレビドラマはほとんど見ないが、アメリカのテレビドラマは大好きである。アメリカのドラマの中には、「ER」のように、日本で(数年遅れで)放映されるようになるものもあるが、向こうでしか見ることの出来ないシリーズも多い。
一般に、アメリカで人気のあるドラマは、ディテールが実に正確である。警察モノ、弁護士モノ、病院モノ、政治モノなど、どのような分野をとっても、その道の専門家を何人も雇って、練りに練った考証をしている。たとえば、ERでよくある場面だが、患者が担架にのってかつぎ込まれながら、取り囲む医師や看護婦たちが薬の名前を早口でいったり、病名を患者にわからないようにコード名でいったりすると、当然英語についていけないボクには何のことやらわからない。しかし、普通のアメリカ人だって、そんな会話にはついていけないのである。それがリアリティーを高めている。医者とか看護婦の知人たちにいわせると、そういったシーンは本当に正確に出来ているそうである。
中でも、ボクが大好きで、いまでも北米に出張するときに再放送を楽しみにしているのはLaw and Orderという、NBC系列で放映されているものである。大当たりを続けていて、いろいろ姉妹編も登場するようになったみたいだが、いちばんはじめにこのシリーズを見たときは、とっても斬新な構成と内容にびっくりしてしまった。まず、前半と後半で、活躍する主人公がまったく違うというのに驚いた。前半は刑事たちが事件の犯人を突き止めることを中心にストーリーが展開する。後半はその容疑を立件する検事たちが主人公である。ニューヨークを舞台にして、政治家の汚職、人種差別、貧困、連邦警察との縄張り争い、ゲイ、麻薬など、時事的にも重要な問題が扱われていて、製作者たちが高い社会性をもって番組作りをしていることがよくわかる。そして、法律に詳しいひとがみていても、後半部分の中で繰り広げられる法律解釈の内容は緻密で、先例なども間違いなく引かれているという。番組のために、一流のロースクール出身のアドバイザーが何人もスタッフとしてついているのだそうである。
後半部分の中心人物は、州の次席検事で、ジャック・マッコイという人物をサム・ウォーターソンという俳優がもうずいぶん長いあいだ演じている。しかし、ボクは初代の次席検事ベン・ストーンを演じたマイケル・モリアーティーが大好きだった。相手の弁護士に対して絶対に妥協せず、時には上司とも衝突する一途な頑固さに、自分こそが社会秩序の番人なのだという自覚がよくにじみ出ていた。陪審員を前にすっくと立って最終弁論を滔々と述べる姿も、なんともカッコよかった。その最終回の場面は、いまでも強烈な印象に残っている。ベン・ストーンは、ある女性を説得し、身の安全をちゃんと保障するからといって、証人として法廷で証言させた。その晩、報復として、その女性はロシアマフィアに殺されてしまう。それで彼は、辞職を決意するのである。
Law and Orderは、番組の中でほとんどBGMが使われないで、淡々と話が展開していくところもよい。このあたり、日本で人気の韓流ドラマとは、どうも反対の方向性をもっているような気がしてならない。