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勉強場所

どこで勉強するか、これはかなり大きな問題である。
ボクは、どちらかというと速読することが得意な方なので、授業や会議のためにどうしても読まなければならないものはたいてい電車で読むことができる。座れれば、答案やレポートの採点だって、電車の中でできちゃう。しかし、ボクは、じっくり読みたい本はじっくりと、しっかりノートをとりながら読む。そうした作業は電車の中ではできない。ましてや、執筆という作業は、短い時間しかない通勤の中ではやっぱりむずかしい。
「大学のセンセイには研究室ってものが与えられているんだから、そこで勉強すればいいではないか」と思われるかもしれない。たしかにそれは、正論である。しかし、実際にはこれはうまくいかない。いまのボクの研究室は、ごちゃごちゃいろいろなものが置いてあって、落ち着いて勉強する環境とはいえない。研究室はどちらかというと授業の準備をする場所という位置づけになってしまって、自分の勉強をする場所ではなくなってしまった。
「大学のセンセイは授業のない日は出講しなくてもよいのだから、自宅で勉強すればいいではないか」と言われるかもしれない。これもまた正論であるが、やっぱりそう簡単ではない。だいたい、最近は授業以外の用事が増えて、大学にでかけないでよい日がほとんどなくなってきた。それで、たまに自宅にいられる日があると、いろいろ誘惑のタネがあって仕方がない。たまにウチにいられるんだから、今日は長いジョギングにでもでかけるかとか、今日は凝った料理でもつくるかとか、どうも勉強とは違った方向に関心がいってしまう。
というわけで、ボクはカフェへいって、勉強することが結構多い。まわりの話し声が気にならないのかと不思議がられるかもしれないが、実は、会話の内容を聞き取れない程度の雑音のある方がよく勉強できる。昔のお気に入りは、アークヒルズのスターバックス。あそこは、天井が高く、広々とした感じがあってとっても気分がよい。そういえば、いつかばったりと、ゼミ生の福田さんに会ったことがあったっけ。最近のお気に入りは、横浜中華街の近くのブレンズコーヒー。朝から一日中勉強していることもある。
ボクらは、いつも複数のプロジェクトを同時並行的に抱えているので、ひとつひとつのプロジェクトに、それぞれの勉強場所があると集中できるような気がする。だから、本当は、お気に入りのカフェをいくつも用意しておいて、こっちのプロジェクトの場合はここのカフェ、あっちのプロジェクトの場合はあそこのカフェ、という具合にすれば一番効率がいいのではないか、と思っている。ただ、自宅からの路線が便利で、気持ちのよいカフェというのは、そうたくさんあるものではない。
昔から、小説家とかが「ホテルにこもって執筆をする」とよくきいていたが、なんてかっこいい生活なんだろうとずっとあこがれていた。ところが、この歳になると、自分もそんなことをやるようになってきたのである。数年前、『政治学辞典』(弘文堂)の項目を100以上も頼まれたとき、サンフランシスコのホテルニッコーにとじこもって、いっきに書き上げたことがあった。すでにインターネット時代だったので、書いては送り、書いては送り、という感じで片付けていった。これは、自分にとっては本当にうまくいった経験だった。だから、どうしても仕事を仕上げなくてはならないときの最後の手段として、大切にとってあるのである。