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2010年09月08日

政治とコメディ

最近、日本では、世相を皮肉る芸人が少ない(ような気がする)。
ボクが育ち盛りのときは、モノマネといえば、政治家のモノマネが定番だった。田中とか福田とか大平とか、格好のネタだった。それがいつ頃からだろうか(天才コロッケの登場あたりからか)、すっかりメジャーの笑いから外れている。政治家の真似をしても面白くないと思っているのか。あるいは、真似してもウケを狙える大物の政治家がいなくなったのか。
ボクのゼミの一期生にK君という八方破りの男がいるのだが、K君はよく政治家のモノマネをして、みんなを笑わせてくれた。小泉元首相とか、石破茂政調会長とか。そう、現代においても、モノマネしたら面白い政治家はたくさんいると思う。民主党の(しゃべり出したらとまらない)Y副代表、(笑顔が作り笑顔にしかならない)R大臣、みんなの党の(髪の毛を立ててない素の顔を見てみたい)W代表・・・。どれも特徴をつかみやすいし、結構笑えると思うけど。
ボクは、海外へいくたびに飛行機の中やホテルで、HBOのスタンドアップコメディーを見ることにしているが、向こうでは「ここまでいっちゃって大丈夫か」というような、政治風刺がいまでも盛んである。たいがい、こうしたコメディアンたちは、共和党や保守派に対して特に批判的であり、ブッシュやサラ・ペーリンなどが格好のターゲットにされている。どれも一時間以上にわたって、もちろん何もメモなどみることなく、次から次へとネタを浴びせ続け、客を掴んではなさない。はっきりいって、こうした計算されたプロの笑いを見てしまうと、今の日本のお笑い芸人の芸は薄っぺらで、比べようもない。
最近の中では、ひとつはBill Maherの新しいショーが強烈だった。「いまだに進化論を受け入れない(←つまり神様がこの世を作ったと信じている)人たちが多数派を占めるアメリカは、アホstupidで、反知的anti-intellectualである」と決め付け、テキサスあたりの「いなかもの」をとことんコケにする。そして、アフガニスタン戦争への反対を唱え、オバマ政権にも釘をさす。それを、すべて笑いにつつんでやるところが、うーん、すごいな、と感心する。
しかし、今回それよりも、もっとすごいのをみた。Robert Klineの新しいネタ、Unfair and Unbalanced。この人のショーは、いつも歌が入る。自分でハーモニカも吹いて、エンターテイメントとして本当に素晴らしい(ただし、あまりに露骨な性的表現が多いので、それがいやな人には見せられない)。今回は、ゲイ批判を続けていたのに自分もゲイだったことが発覚した元上院議員を皮肉った場面が、最高に面白かった。この上院議員は、なんと、空港の公衆トイレでセックス行為をしていたところを見つかっちゃったのである。その滑稽さを、さんざんバカにして、からかっていた。みなさん、本当に可笑しいので、ぜひチャンスがあったら、ご覧になってください。
いうまでもないが、政治家をネタとして笑い飛ばす、というのは、民主主義においてきわめて健全なことである。笑い飛ばしているのが有権者であり、笑い飛ばされているのが(その奉仕者であるべき)政治家という構図は、民主主義の権力関係をよく凝縮して表現しているからである。もしも、万が一、政治家をネタとして笑い飛ばしてはならないなどという雰囲気ないし圧力を、日本の芸人たちや(彼らを採用する)メディアの方が感じているとすれば、それはとんでもない、反民主主義的な事態である。

2010年09月01日

兎と亀の政治学的会話

兎:小沢の圧勝だな
亀:まったく。小沢の圧勝だな。
兎:小沢は、代表選にでて負けたことがない。3戦3勝。出ると決意したこと自体、勝てると判断した、ということだ。だから、この代表選でも、負けるはずがない。
亀:いや、その論法は、ちょっと性急だ。厳密にいうと、代表選の勝負はまだついていない。
兎:はあ? キミもいま、小沢の圧勝、っていったじゃないか。
亀:いいかね、圧勝の意味が違うんだよ。代表選では、ボクは、小沢が勝つと予測する。それはなぜかというと、全勝という戦歴が、彼の決意と政治的判断能力に、クレディビレティ(信憑性)を与えるからだ。3勝4敗の管とは大違いだよ。どっちにつこうか、まだ迷っている人にとってみれば、その差は大きい。
兎:たしかに、管の方の戦績は「(代表選に)参加することに意義がある」ということを宣言しちゃっているようなもんだからな。
亀:だから、管が「どっちが勝ってもノーサイド。代表選が終わったら、一致結束してやりましょう」というと、この人、本当にそう思っているんだろうな、とまわりに思わせてしまう。
兎:小沢だって、同じようなことを発言している。
亀:しかし、それを額面通りに受け取る人はいないさ。
兎:勝ったら、管を応援する前原や野田に冷飯を食らわせて、挙党態勢なんかつくらないだろう、ということか?
亀:そうじゃない。勝ったときどうなるか、が重要じゃなくて、万が一、小沢が負けたときのことが鍵なんだよ。小沢の戦績は、まわりに「出たからは、勝つ」といってるようなものだ。それは、いいかえれば「オレは勝つことしか眼中にない」というメッセージを送っているわけだな。
兎:うんうん。
亀:そのメッセージのさらに一歩先を読めば、「もし万が一オレが負けたら、そのとき民主党はどうなるか、オレは知ったもんか」っていってるのと、同じなのさ。
兎:分裂ってことか。
亀:もちろん小沢は「負けたら分裂させてやる」なんて、ひとことも言ってない。しかし、彼の過去の戦績によって、負けたら党を割って出るぞというメッセージが暗黙のうちに、まわりに送られているのさ。
兎:ということは、管が(万が一)代表選に勝っても、分裂するってことか。
亀:そう。そして、そこまで先読みする人は、小沢支持にまわらざるを得なくなる。党が分裂して政権から離れるのは嫌だろうからね。だから、結局のところ、小沢の圧勝ということにならざるをえないのさ。
兎:管は、どうしても勝てないかね。
亀:むずかしいね。
兎:政策論争をしかけて、勝ったとしても?
亀:政治家を選ぶとき、政策なんてものは大した要素にならない。その人がひとつひとつの行動に命をかけているか、政治生命をかけているか。そういう気迫が伝わってくるかどうかの方が、よっぽど重いと思うね。
兎:たしかに、小沢からは「何がなんでも勝ちにいく」という覚悟が伝わってくるが、管を応援している連中からは「小沢と絶縁してでも勝ちにいく」という覚悟は伝わってこないね。
亀:それは、つまりは、政権を手放す、という覚悟だからね。
兎:じゃあ、管にできることは何もないのか?
亀:あるさ。それは、小沢との決別を前提にした、代表戦が終わった後どうするかという戦略の青写真を描くことさ。
兎:政界再編、ということ?
亀:実際にそうなるかどうか、ではなく、いまそういう青写真をもってないと、管の現在の主張にクレディビリティが備わらないんだよ。
兎:ほかには?
亀:あとは、ネガティヴキャンペーンだろうな。曖昧な仲直りなどあり得ない、ということを明確にする、徹底したネガティヴキャンペーンを展開すること。
兎:やるかね?
亀:やらないだろうね。もしそんな気があるんだったら、もっと前からやっているはずだし、昨日の小沢との会見自体すべきじゃなかったはずだからね。