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2007年07月28日

落語から学ぶ

大学生の頃、よく立川談志さんの独演会を見に行った。国立小劇場とか何とかホールとか、それほど大きくない場所で開かれていて、その頃はまだチケットを取るのもそれほど大変ではなかった。当時は山藤章二さんがプロデュースしていて(←いまでもそうなのかもしれないが)、落語に入る前に、最初に立ったままで長~い「時事ネタ」のトークがあった。これが本当によく考えられていて、楽しみだった。もちろん、その後の落語も、素晴らしかった。落語というものが、可笑しいだけでなく、構成やプレゼンテーションがよく練られていて、知的に面白いものなんだと思うようになった。
いまでも目に焼きついているのは、談志さんの絶大なるオーラである。彼の前に、二つ目とかが演じていても、観客はざわついていたり、なんとなく集中していない。ところが、談志さんが御囃子にのり舞台の右袖から出てくるだけで、観客はシーンとなる。深々と頭を下げ、ゆっくりと顔を上げると、その瞬間、観客の目は彼一点に集中している。この「出方」は、本当にすごい、と素人ながらに思った。
かつて、山藤さんとの対談の中で、春風亭小朝さんが談志師匠の出方を勉強するために、大阪の花月まで聴きに行ったことがあるという話しを読んだことがある。関西では、演者に対してへつらうようなところがなく、観客が「とっちらかっている」ことがふつうなのだそうで、そういう場で談志さんがどうサバクかを見たいと思ったからだという。そしたら、談志さんは、いつもよりも倍丁寧にお辞儀をし、観客のほうに媚をうりまくって、まずツカミをしっかりしておいて、それから自分のペースへもっていったのだそうである。
こういうことは、当然のことながら、教壇にたつボクとしても大変勉強になる。いったいどういう出方をすれば、学生たちの集中を引き寄せることができるか、そしてどうやったらそれを持続させることができるか、本当は毎日もっと意識してやらなければならない。話しのテンポとか、メリハリとか、目配りとか、大学の教員は、もっともっと落語を聴きにいって、勉強すべきなのである。
というわけで、このあいだ、新宿末広亭に行ってきました。土曜日だったので満員、立ち見もでるほどの盛況でした。末広亭ははじめて行ったのであるが、上野の鈴本と違い、中でお酒が飲めないんですね、ちょっとがっかりでした。サキイカでビール、と思っていたのに・・・。
橘家円蔵師匠の「道具屋」が聴けてよかったでした。

寄席に一緒に行こうといっていた知り合いの方がご病気になられてしまいました。
一日も早くご回復するよう、心よりお祈り申し上げております。

2007年07月16日

キング牧師とオバマ議員のスピーチ

アメリカのエール大学にいたとき、民主党の大統領候補にも名乗りをあげたことのあるジェシー・ジャクソン牧師が演説をするというので、聴きに行った。会場に入ったら全然空いている席がなく、うしろの方で立ち見というか立ち聴きするしかなかった。残念ながら、遠くのほうで、しかもかなり強いアクセントでしゃべっていたので、正直言って、ボクの当時の英語力では、その内容をほとんど理解することができなかった。しかし、それでも、ジャクソンさんがいかに演説の名手であるかはよくわかった。聴衆は、まるでロックコンサートにでも来ているかのように、酔っているという感じであった。
その時思ったのは、こんなに演説のうまい政治家は日本にはいない、ということであった。その印象は、それ以来今日までずっと変わっていない。日本では、心を動かされる演説というものを、聴いたためしがない。
よい演説には、リズムがある。いくつかの重要なフレーズを繰り返す。あるいはちょっとずつ違うフレーズを畳み掛ける。拍手と歓声に波乗りするかのように、自分の声の抑揚を合わせて、聴衆の関心を一点に集中させていく。ところどころに、ハッとさせるような寓話やコンセプトを入れて、ほんの一瞬、聴衆が自分の人生や考え方を振り返るように仕向ける。しかし、すぐ手綱を引き締め、重要なフレーズを繰り返しあるいは畳みかけて、集中をまた自分の方へ向けさせていく・・・。
ボクがこれまででいちばん感動した演説は、なんといってもマーティン・ルーサー・キング牧師のI Have a Dreamである。アメリカでは、1月に彼の誕生日を祝う休日があるが、スタンフォード時代、ボクら院生たちは毎年この日になると、この演説のビデオを借りてきて一緒に見るということをしていた。この演説は、英語もわかりやすくて、ボクでもよく理解できた。はじめて聴いたとき、力強いのであるが、その一方でキングさんの声がなんとなく震えているような気がして仕方なかった。そして、そのことと、キングさんが後に暗殺されることになるということとがイメージとしてボクの中でかぶってしまって、ジーンとした。(おそらくもうすでに何度となくこの演説を聴いたことがあったであろう)アメリカ人の友人たちが、真剣に、尊敬というか畏怖の念をもって、この演説にそろって耳を傾けている姿は、忘れられない。自分の国を愛するということは、実は素晴らしいことなのである。
最近、YouTubeなるものを利用して、このI Have a Dream演説をいつでも好きなときに聴けるのだということを発見した。このYouTubeには、ほかにもいろいろな演説がおさめられている。I have a Dreamについで、ボクがかねてから聴いてみたいと思っていたのは、2004年の民主党大会での、バラク・オバマ上院議員の演説であった。彼は、この演説で一躍全国的に有名になり、ご存知のとおり今ではヒラリー・クリントン上院議員と民主党の大統領候補の座を争っている。もちろん、YouTubeにはちゃんと、この演説も入っている。聴いてみたら、評判通りの、すごい演説であった。そして、聴いてみればわかるが、オバマさんの演説の最後の部分は、明らかにキングさんの演説を意識して書かれている。そうした細工も、もちろん、オバマさんの演説を感動的なものにしているひとつの要素なのである。