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オバマさんの5度目の一般教書演説について

遅ればせながら、オバマ大統領のstate of union addressを聴いた。なぜこれを日本語で「一般教書演説」と訳すのか分からないが、合衆国(union)の現状(state)を議会に報告するというのが、この演説である。日本のような議院内閣制と異なり、三権分立が確立しているアメリカでは行政府の長(すなわち大統領)が立法府(すなわち議会)に足を踏み入れることはほとんどない。議会の側が大統領を招いて、この演説をしに来てもらうのである。だから、日本の総理大臣が演説するときのように、議場で議員がヤジを飛ばすなどということは起こらない。それは非礼にあたるからである。因みに議会は大統領だけでなく閣僚や統合参謀たち(制服組)も招待するし、またもうひとつの三権のトップである連邦最高裁判所の判事たちも、その場に招いている。そのような席で、招いた側が失態を演じる分けにはいかないのである。
さて、今回の演説について、ボクが感じたいくつかの印象をメモにまとめておきたい。まず、今回は、圧倒的に国内問題ばかりが語られた演説だった。対外関係についてはイランとの外交交渉の進捗を報告したぐらいで、日本のこと、中国のこと、アジア太平洋のことは、話題にも上らなかった。ま、これはいつものことではあるが、しかし、今回はいつも以上に外交については語らないという抑制が効いているような気がした。外交についてしゃべり出すと、スノーデン事件によって露呈したアメリカの諜報活動について弁解しなければならなくなるという要因も、どこかで働いていたのではないか。もしそうだとすると、スノーデン事件はアメリカの対外政策を内向きにするという(日本にとってみれば)あまり好ましくないボディブロー効果をもっているということになるのかもしれない。
より全般的にいえば、今回の演説は、ほとんどインパクトを残さない、どちらかというと広く浅く表面をさらうだけの演説、という感じがした。大きな懸案だった医療保険改革をなんとかやりとげたものの、それが廃案に追い込まれる不安を抱えていて、ディフェンシブになっている印象だった。今年の目玉はおそらく移民政策だろうということだが、この分野に関する部分でもリーダーシップが感じられる演説ではまったくなかった。
今回の演説は、オバマ大統領にとって二期の二回目の演説で、あと二回この演説をする機会が与えられているのにもかかわらず、前評判では、インパクトのある演説をできるのは今回が最後だろうといわれていた。来年と再来年の演説はすでに2016年の大統領選挙の流れにかき消されてしまうだろうから、というわけである。しかし、今回の演説は、すでにその流れの中に巻き込まれていたのではないか、というのがボクの解釈である。現在、民主党と共和党の間では、女性に優しい民主党、そうでない共和党という(民主党側からの)レッテル張りをめぐって、激しい(というか口汚い)論戦が起こっている。ヒラリー・クリントンを次期大統領候補にしてもり立てようとする民主党側に対して、共和党側は「大統領職にあったとき、若いインターンをだまくらかして性行為までした男の妻」としてヒラリーをおとしめようとしているのである。で、今回のオバマ大統領のスピーチは、女性の地位向上についてのメッセージがここかしこに力強く感じられるものだった。だから、オバマ大統領は、今回は自らの政権が直面する政策課題を具体的に述べることよりも、これから二年後における自らの党の命運にプライオリティをおいていたのではないかと思えるのである。もちろん民主党への支持が高まることが、これから2年間の議会運営をやりやすくするというメリットも、そこには当然あるわけではあるが。