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兎と亀の政治学的会話:安倍・オバマ会談

兎:いやー、早かったね。
亀:早かったって、日程が駆け足だってことかい?それとも、会談が短かったってこと?
兎:いやいや、ホワイトハウスが、二人の会見の模様をホームページにアップするのが、だよ。こういうホームページの作り方やPRでは、日本の官邸はまったく太刀打ちできてないな、アメリカに。それに、アップされていたのは、二人の肉声の入った、生のビデオ付きだった(http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/video/2013/02/22/president-obamas-bilateral-meeting-prime-minister-abe-japan)
亀:見たよ、そのビデオ。今日、早稲田のちょいわるオヤジさんが、コンパスに出演するというので、一緒に見ていたんだ。
兎:内容、結構面白かったね。
亀:実に、いろいろな面で、面白かった。まず、あのランチ前という時間に、ああしたカジュアルで、記者たちがあまりしつこく質問できないようなブリーフィングの場を選んだこと。
兎:オバマさんにされた最初の質問は、日本に関係のない国内政治についてだったよね。
亀:あれは、NBCのサヴァナ・ガスリーの声だったようだが、オバマさんはああいう場では、アメリカの記者は遠慮せず国内問題について質問するということを織り込み済みでいたわけだ。だから、ああいう場にセットしたというのは、長い間二人がそろって質問を受けたくなかった、ということだろうな。
兎:ところで、最初にしゃべったオバマさんはTPPのことは一言もいわず、ごくあいまいな「経済」のこと、という言い方しかしなかったね。経済については、「これから」、つまり「この後ランチの場で話すことになっている」といって、TPPについて質問が来させないように仕組んでいた。
亀:そうそう。それで日米同盟の強化と北朝鮮が前面に押し出されていた。しかし、今回の訪米の目玉が、あくまでTPPだってことは、アメリカ側政府内の日本デスクでは常識だった。
兎:でも、安倍さんにしてみれば、TPPで「聖域あり」を認めさせたのは、成果だったといえるのではないかね。
亀:そうかもしれない。しかし、あの共同声明の英語版と日本語版を読み比べたかい?やっぱり若干ニュアンスがちがうように思えるよ。あのunilaterallyという言葉がどこにかかるかなんだが、法律家とか、読む人が読めば、どちらにも顔の立つ文書になってるんじゃないかな。
兎:それより重要なのは、共同声明を出したあとで、二人が共同記者会見をしないですむスケジュールを組んだことの方だね。
亀:共同声明はギリギリのワーディングだったので、日米両国とも、この共同声明の解釈について、あらためていろいろ質問されることを避けたかったのだろうね。
兎:ところで、このブリーフィングでは、二人の発言に中国という言葉が一回も登場しなかった。
亀:その通り。日本人の記者が質問するまでは、ね。しかし、それに答えるときも、安倍さんは、言葉を選んで、けっして中国を刺激しないような言い方をしていた。尖閣だけに言及するのではなく、尖閣と南シナ海とをならべて言及することで、尖閣問題だけが特別に重要な問題であるというメッセージを出さないように、意図されていたことは明白だった。
兎:安倍さんにしてみれば、今回の訪問を通じて、オバマさんにじきじきに、安保条約の適用範囲であることをいって欲しかったのではないか、という説も成り立つよね。
亀:もしそうだとすると、安倍さんは、明らかにそう説得するのに失敗した、ということになるね。しかし、どうかな。クリントン国務長官、そしてパネッタ国防長官がそろってすでにその主旨の発言を明確にし、中国もよくそれをわかっているので、オバマさんがあらためて言及することは、むしろ必要以上に中国を刺激することになる。
兎:安倍さん自身が、そういう判断に傾いた、ということ?
亀:そう見ることもできるよね。
兎:しかし、いずれにしても、この会見で中国のことがまったく言及されなかったというメッセージが、いま中国に送られたわけだね。
亀:そう。そして、このメッセージの送り方が、日米のあいだで、きわめてよく練られたもの、絶対にこの会見を通じて中国を刺激することがあってはならないんだという意図に基づいて行われたことも、明確だった。その意味では、日米の協調のレベルの高さを見せつけるものになっていたと思うから、中国にとっては、かえって不気味に思えたんじゃないかな。