兎と亀の政治学的会話:前原の出馬は何を物語るか
兎:いよいよ前原が代表選に立候補したね。
亀:そうみたいだね。
兎:もったいぶらせやがって。どうせ最初っから、出たかったくせにさ。
亀:そりゃそうだよ。政治家の行動を突き動かしているインセンティヴは、一に再選、二に昇進だからね。誰だって首相に昇りつめたいとおもっているわけさ。
兎:野田が可哀想だ。
亀:あはは、そんなことはない。野田の場合は、前原が出馬宣言してしまってからでは、名乗りをあげられない。だから、自分が先手を打つしかなかった。それで前原が諦めてくれることを願うしか、勝ち目がなかったんだな。うまくいかなかったが、まあ彼にとっては早い段階で動くことが、合理的だった。
兎:前原には、野田が立候補したことで。焦りはなかったのかね。
亀:全然なかったと思うよ。だって、考えてもごらんよ。前原にとっては「待つ」戦略が最適だった。「前原は出ないのか」という待望論がザワザワと背景にある限りは、野田を含め「どの候補もいまいちだなあ」という気分が広がる。そういう気分にさせればさせるほど、前原が最後に出てきて「いいとこどり」する効果が倍増するわけだ。それに前原には、短期決戦を好む理由がある。献金問題やらなにやらで、いろいろな質問攻めにあうのはたまらない。だから、だーっと、最初の勢いのあるうちに、代表選を迎えたいんだよ。
兎:そうかあ。「白紙」とか「熟考中」とか、いろいろいってたけど、ただただ時間のたつのを待ってたんだね。
亀:ストーンズでも口ずさんでたんじゃないか、「Time is on my side, yes it is」ってね(笑)。
兎:でもさ、仮に前原が今回代表になったとしても、首相を長くは続けられないよね。あと2年のうちには、総選挙がある。このままじゃ間違いなく、民主党は負けるよね。
亀:そう。だから、前原が出馬するっていうことは、結構意味深いことだと思うよ。
兎:どういう意味だい?
亀:前原にしてみれば、本当は短命に終わる政権なんて、望むところではないはずだよね。まだ若いし結構自信家だから、自分だってやろうと思えば小泉さんぐらい長くできると思っている。とすれば、だね、ここは一回パスして、次の機会をうかがう、っていう戦略だって、彼の頭をかすめたと思う。
兎:一種の長期戦略だね。
亀:そう。でもね、彼は長期戦略をとらず、今回短期戦略をとろうと決心したわけだ。
兎:それは何を意味するんだい?
亀:それは、だね、前原自身が、次の選挙で民主党が勝つことはありえない、という判断をした、ということを意味するんだよ。おそらくは、大負けをするだろうと。そして、立ち直るまでに相当時間がかかるだろうと。いや、立ち直れるかどうかも、わからないと。彼は自分の党の将来に見切りをつけたというわけさ。
兎:そうか。冷静というか、結構、冷酷だね
亀:いやいや、合理的なだけさ。しかしね、わかんないのはさ、前原を担いでいるあの若い連中たちだよ。あの人たち、リーダーが立候補を決めたということが実は党の将来に見切りをつけたことを意味するということをわかって、彼を担ごうとしているとは、どうみても思えないんだな。