じゃんけんゲームの国際関係論
先日、あるラジオ番組(CBC “Ideas” Nov. 22)を聴いていて、次のような話がされていた。ゲーム理論入門のような、きわめて簡単な話なのであるが、このような簡単な話が、案外と、いま日本が直面する国際関係の問題をわかりやすく解説してくれるのではないか、と思った。
いま、かりにあなたが、じゃんけんを何度も繰り返すゲームに参加しているとしよう。そして、このゲームには、(国家と国家との対立関係を想起させるべく)結構大きなお金がかかっているとする。勝ち続ければいいもうけとなるが、負けがこむとかなりな金額を支払わなければならないという状況である。要するに、あなたは真剣にこのゲームに取組まなければならない、と想定するのである。
さて、この場合、あなたにとって、最適な戦略とはなにか。その答えは単純である。それは、グー、チョキ、パーを、3分の1の確率でランダムに出す、という戦略である。なぜか。たとえば、あなたがグーを2分の1、チョキとパーをそれぞれ4分の1ずつ出す戦略をとったとする。しかし、そうすると、あなたにとっては、都合の悪い事態が生じかねない。なぜなら、この場合、もし相手が毎回パーを出す戦略を取るとすると、あなたは4分の1は勝ち、4分の1は引き分けるが、半分は負けることになり、全体としてはあなたが負け越すことが明らかだからである。実際、このゲームにおいては、3分の1ずつグー、チョキ、パーを混ぜ合わせて出す戦略から逸脱すると、あなたはそれよりも優れた相手の戦略によって損をする可能性を受け入れなければならないことになるのである。
いま、グー、チョキ、パーを、攻撃的な行動、協調的な行動、中立的な行動に、置き換えて考えてみる。すると、どういうことが見えてくるか。上のじゃんけんゲームの論理に従えば、国家と国家とが対峙しているとき、最適な戦略は、この三つの行動パターンを混ぜ合わせて使う、ということになる。つまり、あるときは明からさまに軍事的脅威をあおってみせ、あるときは核開発を中断するなどといったジェスチャーをとり、そしてあるときは多国間協議に応じてみる、というように硬・軟・中立を使い分けることは、きわめて合理的な戦略展開だと解釈できるのである
実は、なぜこんなことをブログに書こうとおもったかというと、今日、ある政治討論番組を見ていたら、国際問題の専門家を自称している方が、「北朝鮮の行動は、ときどき説明のつかないことがある」と発言していたからである。たしかに、北朝鮮の行動は、ひとつひとつをみると理解に苦しむような、整合性のとれてない場合もある。しかし、だからといって、北朝鮮の行動が非合理的である、などと考えることはとんでもない誤りである。この単純なじゃんけんゲームの話は、一見整合的でないように行動を組み合わせることが、いかに合理的であるかを、見事に物語っているからである。
ところで、上のじゃんけんゲームの最適戦略には、ひとつの重大な難点がある。それは、この戦略では、たしかに「負け越さない」ということは保障されるが、それは「勝ち越す」ために有効であるとはいえない、ということである。
しかし、ボクには、このこと自体もきわめて示唆的に、ひとつの知見を提供してくれるように思える。つまり、いまわれらが隣国は、(たとえば南北を統一しようなどという)だいそれた目的に基づいて動いているのではなく、いかに自分たちの国家体制を存続させるかと、「負けない」ことに汲々としている、としか思えないのである。