« 時間について | メイン | 旅の衣はダウンジャケット »

John Ferejohn

スタンフォード大学のジョン・フェアジョン先生は、ボクのヒーローである。その先生と、ほぼ1週間日本で一緒に過ごした。これほど光栄なことはなかった。今回は、ボクが企画したシンポジウムの基調講演者としてお呼びしたのであるが、そばで見ていて、あらためて何から何まで、彼の凄さに圧倒された。
まず、彼は律儀である。そしてhumble、つまり偉ぶったところが全然ない。基調講演のテキストは、ほぼ締め切り通りに送られてきた。企画している立場からのコメントが欲しいというので、おそるおそる送ると、ちゃんと修正したバージョンが返ってきた。それだけではない。同志社でプレコンファランスを開き、講演のリハーサルをやってもらい、そこでの発表に対してまたいろいろと注文をつけたら、先生は嫌な顔ひとつせず、もういちど大きな修正をして本番に臨んでくれた。おかげで、シンポジウム当日の講演はすごく分かりやすくなった。コミットメントの高さ。他の人の意見やアドバイスに耳を傾ける謙虚さ。頭が下がるばかりである。
次に、彼は頭がいい。本当に頭がいい。講演のテキストはいずれ活字にするし、英語がわかる人はもうすぐGLOPEIIのHPでビデオで見れるようにするから、それらを見れば分かるが、そこでは期待と制度と合理性についてのこれまでの考え方を大きく方向転換するような重大な問題提起が行われている。こんな大風呂敷を広げた議論ができる人は、そうはいない。また、彼はいつでも知的好奇心にあふれている。シンポジウムの他のセッションでも、先生はじっと他の人たちの発表を聞いていた。そういう場で先生が居眠りをしているところを、ボクは見たことがない。実際のところ、彼はあくびひとつしないのである。いつもノートをとらず、じっと集中して聞き、そしてほとんどの発表を(なんと数年たっても)覚えているのである。
それから、フェアジョン先生は、とてつもなくエネルギッシュである。京都では、ホテルに着くなりバーに連れて行かれた。次の日の夜は、木屋町のレストランにお付き合いした。バーもレストランも、どちらも彼が京都に来たときに必ず立ち寄る店なのだそうである。とくに、そのOgawaというレストランでは、再会したシェフにひとつひとつ料理の中味を聞いていた。「大根」や「出汁」はもちろんのこと、「紫蘇」とか「湯葉」といった言葉まで、全部彼は知っていた。そう、彼自身、一流のシェフなのである。
東京では、どうしてもジャズを聴きたい、それも日本人のジャズを聴きたいというので、新宿のJスポットというクラブに行くことになった。ボクは知らなかったのであるが、ここは早稲田の関係者が作ったジャズスポットで、その日は鶴丸はるかさんという女性ボーカルと諸田富男さんというバンドリーダーが率いる六重奏団が演奏していた。たまたま、店の代表の幸田(稔)さんに、先生もサックスを吹くんですよといったら、早稲田の縁もあってか、それでは飛び入りで参加してください、ということになった。
第2ステージの2曲目がおわると、先生の名前が大きくよばれて紹介された。曲はNow is the Time。キーはF。最初のソロを、先生が取った。彼のサックスを聴くのはこれが初めてだったが、バンドの他の人たちのソロとまったく遜色のない、なめらかな演奏だった。