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叙事詩「彼」

自ら漫画本を手にすることを公言したり遊説の第一声を挙げる場所としてわざわざ秋葉原を選んだりすることであたかも自分が新しい感覚の持ち主であることを印象付けられるのではないかなどととんだ勘違いをしているかにみえるその彼に最初は面白がって付き合ってみたもののそのうち「前場」を「まえば」と言い「有無」を「ゆうむ」「詳細」を「ようさい」「踏襲」を「ふしゅう」などと小学生でも間違えないような漢字の読み間違えを連発ししかもその失態を苦し紛れに「ああ単なる勘違いハイ」とかわそうとするばつの悪い姿を見せ付けられるとその彼を選んだ支持者たちですらいくらなんでも本当に大丈夫なのかと心配になってくるのも無理のないことであろうけれどもわれわれ一般人から見るとどうみても何かのコンプレックスからくるとしか思えないそのあからさまな虚栄心が自らの教養の低さを棚にあげて記者に対して「知らないで質問なんか(するな)」などと威張ってみせたりするところあるいは答えに窮すると公式のインタヴューであっても唐突に不機嫌を装い第一人称をさす代名詞にわざと「オレ」といって下品を装ってみせる自分の下品に気がつかないところさらにはスーパーを視察と称して訪れてはみたもののカップラーメンの値段ひとつろくに知らずに見え透いたパフォーマンスのちぐはぐさをいとも簡単に露呈してしまうところそしてそのような日常的感覚の欠如がなにより育ちの悪さの産物であるにもかかわらずどこかでそれを自分の血統の良さの証明であるかのように誤解しているようなところなどなどこれらはすべて見事なまでに滑稽でありアメリカのサラペイリンがそうであったように宴会や余興の席で多くのパロディのネタを提供してくれて純粋に楽しめないこともないのであるがしかし今回の経済危機の打開策として「定額給付金」を緊急に決定した際にはその条件として「公平性」が入っていたにもかかわらずいつのまにかそれが抜け落ち「迅速性」と「利便性」ばかりを前面に押し出すようになりしかも政策の根拠の変化について質問されても片意地張って知らんぷりを貫き通そうとする姿をみると滑稽も度を越して醜さに転じ多少こちらにも意地悪心が働いて「あなたはロールズを読んだことがありますか」とか「あなたは社会契約説をどう理解しているんですか」などという彼にしてみればおそらく答えることのできないむずかしい問いを投げかけてからかってみたくもなってくるのであるがただそれにしてもだからといって彼が政治家として不適格であるとか最低だなどというつもりはもちろん毛頭なくむしろ彼こそは現代の政治学が描く政治家の真髄をきわめて典型的に表している人物であり実際いかに政治家という職種の人々の行動が選挙で勝つことと役職に居座ることというふたつの動機のみによってつき動かされているかという命題をこれほどまで教科書通りに描いてくれる人は彼をおいてほかにいないのであって大学において政治学を教える者としては使い勝手のよいまことに格好の題材を提供してくれている彼のそのきわめて単純でわかりやすい行動原理にただただ心から感謝するばかりである。