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歴史的演説から

以下は、2008年11月4日、次期アメリカ大統領に決まった民主党候補バラク・オバマ氏の勝利演説の一部を翻訳したものである。このような瞬間に、同時代人として立ち会うことができた幸運に心から感謝したい。

この選挙では、「初めて」ということがたくさん起こり、これから何世代にもわたって語り継がれていくであろう多くの物語がうまれました。しかし、今夜、私の心にあるのは、アトランタで一票を投じたある女性のことです。この方は、今回の選挙で自らの声を聴いてほしいと長い投票所の列に並んだ何百万の一人です。しかし、一点だけ、彼女はほかの人と違っていました。このアン・ニクソン・クーパーさん、106歳なんです。
彼女が生まれたのは奴隷制が終わってすぐの時代、まだ車も飛行機もない時でした。そして、それは彼女のような人が投票できなかった時代でした。その理由は二つ。ひとつは彼女が女性だったから。そしてもうひとつの理由は彼女の肌の色でした。
今宵、私は、彼女がこの百年の間にアメリカで見てきたことに思いをはせるのです。失望と希望。闘争と進歩。「そんなことできるわけない」といわれた時代、しかしそれでもアメリカの理想を掲げて、前へ進もうとした人たち。
Yes, we can そう、われわれにはできるのです。
女性たちの声が掻き消されその希望が捨て去られても、クーパーさんはその人生において、女性たちが再び立ち上がり、声を上げ、投票へ向かうのを見てきたのです。
Yes, we can そう、われわれにはできるのです。
砂嵐が猛威をふるい、全国に不況が襲ったとき、彼女は、ニューディールによって、新しい仕事に就くことによって、そして新しい共通の目標を分かち合うことによって、国民が自らの恐怖を退治するところを見ていました。
Yes, we can そう、われわれにはできるのです。
わが領土の湾が爆撃をうけ、暴政が世界を脅かしたときも、彼女は偉大な世代が立ち上がり、民主主義が守られるのを目撃していました。
Yes, we can そう、われわれにはできるのです。
彼女は、モンゴメリーのバスにも、バーミンガムの放水の中にも、セルマの橋にも居合わせました。そして、アトランタから来た牧師が「乗越えていこうではないか(We shall overcome)」と人々に説いたときにも、そこにいたのです。
Yes, we can そう、われわれにはできるのです。
人間は月に降り立ち、ベルリンの壁は崩れました。世界は、科学とイマジネーションによってつながるようにもなりました。そして、今年、この選挙において、クーパーさんは自分の指をスクリーンの上で動かして、みずからの一票を投じたのです。なぜか。それは、彼女がこのアメリカで106年間、よいときも暗黒の時代も経験してきて、アメリカという国がいかに変われるかを知っているからです。
Yes, we can われわれにはできるのです。