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内部情報はあてにならない、あるいは、S氏から夕食をご馳走になるという話

夏の終わりのある日、ボクは、学会のあったボストンからバンクーバーへ帰る飛行機の乗り継ぎでモントリオール空港にいた。ラウンジでメールをチェックしたら、アメリカ人の友人のSさんから「電話で話したい」という連絡が入っていた。はて何のことだろうと思って、バンクーバーの滞在先の電話番号を教えた。
Sさんは、日本語もできる知日派の若手研究者。実はオバマ候補のキャンペーンで働いており、オバマ候補へのブリーフィングのために日本の最新の政治情勢について報告書を急いで書かなければならない、ということだった。当時日本は、福田前首相辞任のニュースで混乱していて、オバマ陣営では日本に関する情勢分析を必要としていた。彼女は、それでボクに意見を聴きたいということだった。
バンクーバーについてから、ボクはSさんと長々と電話でしゃべった。その中ではっきりと言ったのは「これで総選挙の時期が来年以降にずれこむことになるだろう」という予測だった。ボクは「麻生さんが首相になりそうだが、彼はすぐ解散にうって出ても負ける可能性が高いと思っている。そうすると、彼の政権は三日天下で終わってしまう。政治学の常識から考えて、自らの任期を縮めるような選択をするわけはない」といったのである。彼女も、ボクのこの分析に同意してくれ、そのように報告書を書くといってくれた。
さて、それから1-2週間すると、日本では解散総選挙が近いという報道で一色になった。ボクの同僚のT先生などは、新聞記者さんたちと仲がよく、その内部情報に基づいて総選挙は「○月X日だそうです」ときっぱりといっていた。Sさんに、年内解散はないと言っちゃったボクは、あせり始めた。しばらくして、彼女から「どうやらわれわれの予測は間違っちゃったみたいね」とメールが入ってきた。あーあ、やばい。これでSさんの、ひいてはオバマ陣営からの信頼を失っちゃったな、と滅入った。
ところが、ところが、(エヘン)、ちょいと、みなさん、やっぱりボクの予測、正しかったじゃないですか。麻生さん、いま、まったく解散しそうにないですよね。経済危機を口実にして、総選挙のタイミングを遅らせ、自分の在任期間を少しでも長くしようとしている。最近では、消費税アップのことまで持ち出して、与党のなかでも総選挙をやりにくい状況を着々と作り出すアジェンダセッティングもしている。ボクは、まえに『論座』の対談で、政治を分析する上では、現場主義に基づいて収集された内部情報というのは当てにならない、もっと理論的に考えることが重要だ、ということを言ったのだけれども、今回の話はまったくそのことを裏付ける形となった。11月に選挙がなさそうだということになり、Sさんは、ボクの分析に基づいた報告書のおかげで、仲間からの信用を勝ち取ることができた、と感謝してくれた。よかった、よかった。
ボクは、Sさんがオバマ陣営で働いていることを公表していいものかどうか迷っていたが、きのうNHKの番組をみていたら、日本の在ワシントン大使館がオバマ候補側の知日派として考えている人々の中にちゃんと彼女の写真が入って紹介されていた。そのことをメールで知らせると、早速返事がきた。彼女は、日本の駐米公使と総選挙のタイミングで賭けをして勝ち、夕食をおごってもらったそうである。
「あなた(ボク)にいわれたことに従って、自分の主張を曲げないでずっといたの。今度は、私があなたに夕食をおごらなくちゃね。」
エヘン。