ペアレンティング
英語でparentは「親」という意味の名詞であるが、それを動詞扱いしてparentingという動名詞を用いることがある。直訳すると「親となること」。しかし、これではなんのことかわからない。日本語には「子育て」という言葉があるが、意味はちょっと違う。
「What are you doing this weekend?」
「Oh, I will be busy parenting」
たとえば、スポーツやピアノ教室への送り迎えは、自分の子供を直接的な対象にしたparentingである。しかし、自分の子供だけが対象でない活動もparentingであったりする。たとえば学校でバーベキューパーティがあり、ハンバーガーを焼く係を買って出るといった場合。あるいは子供が不在であっても、学校のPTAミーティングやボランティア活動に参加したりする場合。これらも、立派なparentingである。
思うに、parentingというのは、物理的に「(自分の)子供を育てること」に関わるだけでなく、より社会的なコンセプトであり、「親として責任を果たすこと」という意味をもつ。より正確にいうと、この場合の責任というのは、「社会で期待されている責任」という意味である。したがって、それはかなり広く捉えられる。
実は、先日、ボクはゴールデンウィークを利用して、娘のバレーボールトーナメントに行ってきた。場所は、バンクーバーから車で5時間ぐらいかかるケロウナという町。州のさまざまなバレーボールクラブチームが一同に会し、二つのレベルに分けられて、それぞれのグループで優勝を争う、年に一度の大きな大会である。州には何十という数のクラブがあるから、日程はまるまる2日間に及ぶ。そこで、われわれは2泊3日のちょっとした旅行を計画しなければならない。
大きなバンをもつ親が、何人もの子供を乗せて運転することを買って出る。そして、コーチたちと適度に連携し、彼らだけでは面倒みきれない部分を全般的にアシストすることを約束する。たとえば、試合と試合との合間をぬって、ランチの買出しをしたり、おやつやペットボトルを用意したりする。一日目の夜には、ユニフォームや靴下の洗濯もしなければならない。もちろん、試合のときは、声を枯らしてチームを応援する。中には、試合のスコアキーピングを任された親もいた。実際、こうしたさまざまなparentingに支えられて、トーナメント自体が成立しているのである。
2泊3日の行程をずっと一緒にすごすのであるから、親同士のあいだでは、親密でそれなりに突っ込んだ会話が取り交わされる。子供たち同士は、スポーツ活動を通してよき友人を得るが、自分の子供が所属しているクラブチームがうまく機能するためには、親たちの間でも一定の連帯感がなければならない。それは、ホテルで朝食を一緒に食べたり、子供たちのいいプレイをみて微笑みあったり、夕食時にワインを分け合ったり、というような共通体験を通してしか、生まれてこない。
そう、社会的に期待されているparentingの重要な側面のひとつには、ほかの親たちとのコミュニケーションをはかる、ということもあるのである。