カリフォルニアのFMラジオ
カリフォルニア州のコールズバッドという小さな町に高校留学していた頃、サンディエゴから流れてくるFM放送局をよく聴いていた。昼間だけでなく、夜も聴いていた。同じ部屋をシェアしていたホストファミリーの弟が、寝るときもラジオをかけっぱなしにするという習慣をもっていたからである。最初は戸惑ったが、ボクもしだいにそれに慣れるようになった。
ステーションの名前は、FM-B100だったと思う。今もあるのかどうか、知らない。
ボクは、日本の高校時代、自分では結構洋楽を聴いている方だと思っていた。ところが、このFM局から流れてくるほとんどの曲を、ボクは知らなかった。世の中には、いっぱいいい歌があるんだ、自分の音楽の知識なんてほんとに氷山の一角に過ぎないんだ、と思い知らされた。
向こうのラジオは、余計なおしゃべりが少ない。それから、前にも書いたことがあると思うが、向こうのラジオでは、新しい曲とともに、かつての名曲を織り交ぜて、かけてくれる。だから、その留学をしていた一年、ずっとFM-B100を聴き続けたことで、本当に自分の音楽の幅が広がったと思う。
帰国しなければならない日が近づき、いろいろエモーショナルなことが重なる中で、ある日、自分の生活の一部となりつつあったこのラジオ局とお別れしなければならないのだ、とハタと気づき、とっても悲しくなった。それで、あわてて自分のもっていたカセットテープの一面に、その時オンエアされているものをそのまま録音することにした。90分テープだったので、45分間のカリフォルニアの時空間が、そこに詰め込まれることになった。それは、1980年夏のある日(夕方)の45分間のボクの人生が詰め込まれた、貴重なテープだった。
もちろん、ボクは、日本に帰ってから、何度も何度もそのテープを聴いた。しばらくは、一日に一回は聴いていた。しかし、時が過ぎ、大学に進学し、大学院の勉強のため再び北米に戻り、新しい生活が始まり、やがて日本に帰国し・・・などと、いろいろ引越しをしているうちに、そのテープはどこかに行ってしまった。すくなくとも、今のボクの家にも実家にもない。もしかしたら、あんまり何度も聴いたので、もう音質がおかしくなって、どこかの時点でついにあきらめて、捨ててしまったのかもしれない。
しかし、人間の記憶というものは、すごいというか恐ろしい。いまでもボクは、そのテープに、どういう曲がどういう順番で流れていたかをほとんど覚えている。・・・”Listen to the Music,” ”Something,” “Time in a Bottle,” ”Wild Horses,” ”Surfer Girl,” “Pretender,” “Steal Away,” “Feel Like a Natural Woman,”・・・と続いていく。ほらね、どれも名曲ばかりでしょ?こんな感じで、一日中続くあのラジオ局は、本当に素晴らしかった。
先日、Jackson Browneのベストアルバムを買い、Pretenderをipodに入れた。これで、なくしたテープを完結したかたちで、再現できるようになった。30年近く前に過ごしたカリフォルニアの日々の想い出とともに。