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日本語になりにくい英語

最近論文を翻訳する機会が多く、そのたびに日本語になりにくい英単語に苦労している。で、いつかそういう単語をAからZまでひとつずつ集めて「訳しにくい英単語集」という本でも出そうかと思っているのであるが、まめにメモを取ることをしないので、いっこうにそのリストが完成しない。しかし、今日はそのリストの候補になると思われる単語をここにちょっといくつか並べてみようかと思う。あとで付け足していってもいいしね。
まず、Aはというと、これは結構候補を挙げることができる。たとえばavailable。あるいはその名詞形のavailability。これがどちらもなかなか訳せない。「ありえる」とか「手に取ることのできる」とか訳して通じるときもあるが、それでもピッタリ感がない。「利用可能な」と訳したりするときもある。Are you available on Sunday?は「日曜日、お暇ですか」とか「ご都合つきますか」と訳さなければならない。Is she available now?を「彼女って、いまカレシ募集中?」と訳さなければならない場合もある。
Aのもうひとつの有力候補はalternative。いつかゼミ生たちにからかわれたことがあるが、どうもボクは授業中にこの言葉を「オルターナティヴ」とカタカナ読みにして、すでに結構使っているらしい。これを「もうひとつの選択肢」とか「代替案」とか訳しても、ピンとこない。外国のCD店にいくと、「ちょっと変わった趣味の」とか「めずらしい」とかいうジャンルの音楽を指す場合にも、この言葉が用いられている。いい加減日本語にしてもいいのではないか、と思うくらいの単語である。
Cの有力候補はcool。もうこれはクールと訳すしかない。He is so coolは、「カッコイイ」や「素敵」では、全然通じない。日本語の「カッコイイ」とか「素敵」という言葉は、下から上へ見上げているような眼線にのっている。これに対してcoolは、対等な相手に対して「アイツいいやつだよ」という感じで使われるし、そのように自分も努力してなりたいというようにあくまで対等感が暗黙にこめられている。
Cでは、civilという言葉もある。政治学では「市民の」とか「市民的な」と訳されるが、これではまったく通じない場合がある。たとえば、喧嘩をしたあとの友人同士や離婚したあとの元夫婦の関係がcivil to each otherであるというのは、再び会う機会があっても取っ組み合いや引っ掻き合いに発展するのでなく、すくなくとも対話が成り立つ程度には穏やかである、という意味である。そうそう、これと似たような意味で使われるbehaveという言葉も、なかなか訳せない。そうした再会の場で「did he behave?」というのは、「わきまえた行動をとっていたか」という意味である。これを辞書通りに「行動したか」と訳したのでは、わからない。
Oblivious。これも、なかなかいい訳が浮かばない単語である。「忘却している」なんて辞書通りに訳したら、意味がまったく伝わらない。She is so oblivious to everyday lifeとかいうと、「世事に疎い」とか「浮世離れしている」とかいう意味(大学教授みたいに?)である。幼い子供たちが、まわりにある危険を顧みず、一心不乱に道路の真ん中で遊んでいたりする様子も、この言葉で表現できる。こういうと、純真さをイメージするかもしれないが、そればかりではない。とんでもないマイペースでまわりにまったく気を使わない人を、oblivious to others とかいうこともできる。電車の中でマナーのない人をみると、ボクは「ミスターオブリヴィアス」とか「ミスオブリヴィアス」とか呼ぶことにしている。これ、流行らせたいなあ・・・。