Lost in Translation
遅ればせながら(ちょっと遅ればせ過ぎるが)、ソフィア・コッポラ監督の映画Lost in Translationを見た。アメリカの友人たちに会うたびにだれからも「あの映画、見たか」といわれていたので、ずっとみたいみたいと思っていたのだが、最近になってようやっとみる機会を得た。
で、感想は、というと・・・。
まず、とっても面白かった。
たとえば、最初の方の、ウィスキーを飲むCMを撮るシーン。無能な通訳が若い監督の指示を伝えられないところ(←まさにlost in translation)は、バイリンガルな人が聞くとかなり傑作なやりとりだと思う。
それから、アメリカにいる奥さんからFedexでカーペットの切りはしサンプルがホテルに送られてくるところ。実は、このシーンは、かのB・ワインゲスト先生のお気に入りのシーンである。ワインゲスト先生を早稲田のシンポジウムに招待したとき、彼はPark Hyattにどうしても泊まりたいとおっしゃられて、その理由がこの映画を見たから、というものであった。で、このシーン、別の意味でのlost in translationを良く象徴していた。
2003年に作られたこの映画が、現代日本の社会をどのように捉えているかという点からも(←ちょっと学術的というか、職業病的であるが)、とても興味深かった。ゲーセン、パチンコ、カラオケ、渋谷や新宿の雑踏などが、まあ誇張も多少入っているが、うまく伝えられていると思った。
セリフも、なかなかよかった。
大きなベッドに並んで横たわって、主人公ボブ(Bill Murry演じる中年映画俳優)に、結婚2年目でありながら歩んでいる人生に疑問を感じ始めた女性シャーレット(Scarlett Johanson)が尋ねるシーンがある。
「I feel stuck.・・・Does it get easier?」
で、これに対し、ボブは、間髪をいれず「No」と答えるのだが、すぐさま「Yes」と言い換える。このあたり、ボクのような中年のオジサンには、コタエル会話である・・・。
バーの歌手と浮気したボブを、すき焼きを食べながらシャーレットが皮肉るシーンで「歳が近いから、育った50年代のこととか、話が合うんじゃない?」というセリフがある。さりげなく知的である。
知的といえば、シャーレットがイェールの哲学科卒業という設定も面白いと思った。そのシャーレットが、ダメ夫から「タバコは健康によくないから止めたら」といわれて、「I stop later」というところがある。このセリフも、笑えた。
この映画は、最後に、帰国の途につくボブがタクシーを止め、ちゃんとしたサヨナラをいいそこねたシャーロットを雑踏の中で抱きしめて、何かをささやく場面がある。そこでどのような言葉が交わされているか、映画ではわからないようになっている。ここにもlost in translationがある。
心の通い合ったプライベートな会話は、当事者二人以外の人間にとっては意味のないものである。しかし、その二人の人間にとっては、はかりしれない重みのある言葉なのである。