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神戸のタクシーはなぜ黒いか

研究会がおわり、ボクらは神戸大学の前のバス停でバスを待っていた。すこし待ち時間が長かったので、ボクは、行きのタクシーの中で運転手さんから仕入れたネタをみんなに披露しようと思った。
ボク「ねえねえ、どうして神戸のタクシーって、みんな黒塗りなのか、知ってます?」
みんな「いや、知らない」
ボク「どうもそれは震災と関係あるらしいんですよ・・・」
行ってみればわかるが、新神戸の駅へ降り立つと、黒色のタクシーがずらりと並んでいる。ボクは、随分前から、このことが気になっていた。ま、はっきりいって、ちょっと怖い感じがするほどである。神戸といえば、「その筋」でも有名だからね。だが、その運転手さんによると、黒いタクシーが多いのは、「その筋」とはあんまり関係ないのだそうである。彼は、神戸のタクシーがみな黒くなったのは、震災の後だったという。なぜかというと、震災の後、沢山の葬祭があった。そういう場では、緑やオレンジや黄色のタクシーでは人を送れない。それで、会社も個人タクシーも色つきをやめていった、というのである。
ボクは、この説明にとっても納得したので、得意になってバス停でそれをみんなにしゃべっていた。そしたら、久米先生が横から口を挟んできた。「それ、キミ、よそもんと思われて、調子ようだまされたんヤデ。どうせ、タクシーん中で、東京弁でペラペラとしゃべっとったんとチガウ?」
久米さんにいわせると、神戸にも、カラフルなタクシーはまだたくさんあるという。震災後の葬儀のせいでタクシーがみな黒塗りになったなんて話は、聞いたことがない。ボクがつまらないことを尋たんで、運転手はからかうつもりでそのまことしやかな説をとうとうと述べたのだ、と・・・きっと、今頃どこかの飲み屋で、運転手仲間の「今日の面白い客」として、笑いのネタになっているだろうと・・・
ボクは、久米さんにいわれて、そうかなあと思い返してしまった。たしかに葬儀に黒のタクシーでなければならないなんてことはないかも・・・そういえば自分は騙されやすい方かも・・・ああ、自分はとんだお人好しかも・・・。
そしたら、久米さんが追い討ちをかけるようにいう。「そうそう、ここのバス停って、イノシシの家族が毎日通るんで有名なんやって、知ってた?」ボクは、これにはアッタマにきて、「イノシシ?あのねえ、どこまで人を騙されやすいと思っているんですか」と噛み付いた。ところが、である。実は、このイノシシの話は本当で、神戸大学周辺では有名だということがわかった。さてはて、いったい人の話というのは、何をどこまで信じてよいものか、まったく自信を無くしてしまった。
ちなみに、帰りのタクシーでも、ボクは運転手さんに「新神戸の駅前って、黒いタクシーばかりですよね、あれって、なんか震災と関係あるんでしょうかね」と、すっとぼけて聞いてみた。そしたら、その運転手さんはいう。「ああ、それは駅のそばに神戸オリエンタルホテルが開業してからですね。最初、ホテルが黒塗りのタクシーしか、中に入れなかったんですわ。色つきだと、お客さんが途中で降ろされちゃって、評判悪かったんですわ」
ヘン、そう簡単に騙されるものかと、ボクは、腹の中でしっかり思っていたのであった。