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一票の格差問題について

昨年12月の衆院選における一票の価値の格差が、法の下の平等を定めた憲法に違反しているという高裁レベルの判決が相次いでいる。そしていま与野党の間では、3月28日に勧告された新しい区割り案に基づき「0増5減」をこの国会で実現するかどうかでもめている。
ボクは、この一連の問題について結構いっぱいいいたいことがある。おそらく政治学者を名乗る者だったら、ボクと同じに、いいたいことを山ほど持っていると思う。だから、もしかすると、そんなこと、もうわかりきっているよとか、みんないっているよ、とかいう批判が飛んできそうだけれども、ちょっとだけいわせて下さい。
第一に、一票の価値の平等がどれほど重要かということが、もしかすると日本ではあまり実感されてないんじゃないかと、ボクはずーっと気になっている。都会に住んでいる人と地方に住んでいる人とのあいだの格差ではピンとこないかもしれないが、メガネをかけている人の一票はかけてない人の一票の価値の5分の3です、とか、男性の一票は女性の一票の半分です、ということにでもなったら、これは大変なことだと、だれもが当事者意識を持てるはずである。しかるに、いま問題となっているのは、まさにそれらと同じに、特定の「クラス」を設けて、その人たちをそれ以外の人たちに対して差別しているという、とんでもない暴挙なのである。裁判所が国会の怠慢を糾弾するのは、当たり前である。
第二に、その国会であるが、ボクはつねづね、なぜ衆議院議長が一票の格差の是正でちゃんとリーダーシップを発揮しないのか、まったく理解できない。批判されるべきは、そして実際今回の判決で批判されているのは、「政府」(行政府)ではなく「国会」である。三権分立の原理からいえば、与野党の選挙改革の議論をまとめられなかったのは首相の責任ではなく、国会そのものの責任と捉えなければならないのであり、歴代の衆院議長こそ怠慢の批判を最も負うべき立場にいるとボクは思う。今度の区割り勧告を出した「選挙区画定審議会」も、総務省(すなわち行政府)のもとに置かれた審議会であるから、それに対しては野党が(いや、与党も)ケチをつけることができるという構図になっている。いま必要なのは、国会が自らの権威を委譲する形で第三者機関を設けて、区割り審議、さらには抜本的な制度改革の審議をお願いするということ、つまり出てきた勧告にケチをつけることができないような組織を制度化するということ、それしかないと思う。
第三に、返す刀で、ボクは前回の判決で最高裁判所が、現行のいわゆる「一人別枠方式」を批判したというのも、三権分立の原理から外れていたと思う。もし一人別枠方式がまずいという主張ができるのであれば、たとえば中選挙区制のもとで5人区と3人区を設けることだってまずいという主張もできるかもしれないし、東京をひとつの地域ブロックとしてみなすこともよくない、という主張だってできてしまうかもしれない。そのような制度の中味についての議論は、それこそ、国会の裁量権に委ねられるべきものである。裁判所が、一人別枠方式の結果としてでてきた不平等に対して警鐘をならすことは当然のことであるが、その不平等の原因を制度的に特定することは、間違っているし、してはならないことだったと思う。国会は、この部分についての最高裁判決はむしろ無視すべきであり、その意味においては、いちはやく違憲状態を脱するよう「0増5減」を実現すべきだと思う。