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Dave Brubeck

ボクがジャズを聴くようになったのには、いろいろなきっかけがある。まず、大学に入った時、母方の叔父からオスカー・ピーターソンtの「プリーズリクエスト」というアルバムをもらった。「ロックやフォークソングばっかり聴いてないで、少しは大人の音楽も聴きなさい」というメッセージが込められていたわけだ。たしかに、このアルバムは、短いスタンダード曲ばかりを集めたもので聴きやすく初心者向けであった。しかし、正直いって、これを聴いただけではあまりジャズに傾倒しよう、という気にはならなかった。
それからしばらくして、マンハッタン・トランスファーが日本で公演をして、それをテレビでみて、ボクは凄いショックを受けた。MTは、高校時代に留学していたアメリカで、Boy from New York Cityというヒットを飛ばしていたのを知っていたが、まさか本業がこんなにエンターテーニングなジャズのヴォーカル・グループだとは思わなかった。それ以降、ボクはMTのアルバムを買いあさった。そして、彼らが歌うジャズの名曲に、慣れ親しんでいった。
それでいつしか、ボクはスィングジャーナルという雑誌を買うまでに、ジャズに興味を持つようになった。このジャーナルが、ある時、名盤100選というのを特集していた。その頃はお金がなかったので、それを一枚一枚買い集めるなどということはできなかったが、ヒマを見つけてはその本で、誰が誰の影響をうけてどういう音楽を発展させてきたのか、を勉強した。
その100枚の中の一枚が、デーヴ・ブルーベックqのDave Digs Disneyだった。「ハイ・ホー」とか「いつか王子様が」とか、誰もが知っているディズニーのメロディーを明るくアレンジし、彼の真骨頂である変則リズムもとりいれ、しかもポール・デズモンドのサックスも生かした、素晴らしいアルバムである。その後、彼が大学にジャズを持ち込んで若い人たちにジャズを普及させ、圧倒的な支持を得たということを知った。実際、ボク自身、このアルバムを聴いて、他も聴いてみようと思うようになった。スタンゲッツ、MJQ、マイルド・デーヴィス、セロニアス・モンク、キース・ジャレット...。
しかし、ボクにとって、いちばん最初に聴いた、100選に選ばれたジャズ名盤は、このデーヴ・ブルーベックだったのである。
実は、ボクは、この自分の経験を、友人や学生たちにも伝承しようとしている。
もうずっと前、スタンフォードに留学していた時代にさかのぼるが、現経済産業省から留学していたS・Kさんが、「河野さん、ジャズのCDいっぱいもってますね、どれか聴きやすいオススメはないですか」というので、ボクは迷うことなく、このアルバムを渡した。そしたら、1週間ほどして彼から「落ち込んでいたのに、本当に気持ちが晴れやかになりましたよ」と連絡をうけて、とてもうれしくなったのを覚えている。
最近でも、ゼミ生たちから「先生、ジャズを聴いてみたいと思うんですけど、何から聴けばいいんですか」という質問を受けることがあるが、そうした時はいつでもボクは、このアルバムを推薦することにしている。
一度だけ、ボクは、生身のデーヴ・ブルーベックを見た/聴いたことがあった。イェールに留学していた時、ボクの住んでいた寮のすぐ近くのカレッジに彼が招かれて、演奏を交えたレクチャーをすると聞きつけたので、いってみた。はっきり言って、彼が何をしゃべっているのかは、(当時のボクの英語力では)よくわからなかった。しかし、小気味よいピアノの音は、今でもボクの耳に焼き付いている。

ボクの人生に、素晴らしい音楽を紹介してくれたことに感謝しつつ、心から、ご冥福をお祈りする。