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オバマさんの涙

再選されたアメリカ大統領オバマさんのスピーチが話題になっている。
選挙の結果が明らかになった夜、興奮する大勢の支持者の前でした、オフィシャルな勝利宣言スピーチではない。
実は、あの勝利宣スピーチは、たいして感動を呼ぶものとはいえなかった。スピーチがうまい政治家であるオバマさんにしてみれば、かなりランクの下の方に属する、はっきりいって凡庸なスピーチだった。
話題になっているのは、選挙が終わった次の日に、自らの選挙活動を支えてくれた少人数のスタッフたちを前にして、彼らに感謝の気持ちを表すためにしたほんの5分程度の短いスピーチである。
なぜ、そのスピーチが話題になっているかというと、そこでオバマさんが、感極まって、涙を流しているからである。

http://www.youtube.com/watch?v=pBK2rfZt32g&feature=related

オバマさんは、もっぱら「クール」な政治家と言われる。あまり喜怒哀楽を表に出さない。それがゆえに、彼に対しては、「本当に熱情をもって政治をしているのか」という批判がなされることさえある。
オバマさんがクールであるのは、彼が自分自身で「『怒れる黒人』であってはならないと心に決めているから」(Mark Shields)である。彼のクールさは、彼にとっては政治家としての装いでもあり、同時にまた彼の政治信条そのものでもある。
だから、オバマさんが人前で涙をみせるというのは、珍しい。
だから、話題になっているのである。
なぜ、オバマさんは、それほどまでに、感極まったのか。
オバマさんは、もともとシカゴで、コミュニティビルダーとして、政治を志すようになった。その若き日の自分の姿が、今回の選挙で彼を支えてくれた若いスタッフたちと重なり合い、自分がやってきた活動が回り回って、いま何百というその後継者たちに引き継がれていっていることに感動したのである。
「君たちは、何をやったとしても、間違いなく成功する」と、彼は語った。
そして、自分の抱いた志が幾重にも広がっていくさまを、彼は「ripples of hope」と表現したのである。
オバマさんは、単に手紙やメールを書くのではなく、数百人のスタッフひとりひとりと、握手と抱擁をし、感謝したそうである。きっと、そのひとりひとりが、いずれまた数百人の後継者を生んでいくことを、そうまさに希望が幾重もの波紋として広がっていくことを、確信していたにちがいない。
このスピーチは、彼が自分のパーソナルな面をみせた珍しい演説の一つとして、きっと長く記憶に留められていくと思う。

PS:ripples of hopeという表現については、Amy Davidson の小文も参照。http://www.newyorker.com/online/blogs/closeread/2012/11/obamas-tears-and-ripples-of-hope.html?mbid=social_retweet