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知っているようで知らないアメリカ建国の話シリーズその⑪~「コンヴェンション」というコンヴェンションの起源~

現代の英語ではconventionというのは、「慣習」とか「慣行」という意味に用いられる。しかし、この言葉には、「会議」とか「集会」という意味もある。いまでは日本の各地にもコンヴェンションセンターなる建物が建てられているが、これらは大掛かりな会議や集会をする場所という意味でそう呼ばれている。いったい、慣習と会議というこの二つの意味は、どこでどうつながっているのだろうか。
周知のように、1787年フィラデルフィアにおいて新しい憲法を制定した会議は、「コンヴェンション」であった。これは、中世以来、スコットランドやイングランドなどで使われていた語法に拠ったものである。コンヴェンションは人が集まるという意味であるが、ポイントは、コンヴェンションとは国王の命によって招集される議会ではない、というところにあった。つまり、それは、「正式・正規ではない」会議や集会を指す言葉だったのである。
マディソンたちは、フィラデルフィアで新しい憲法を制定する行為が合法的でないことをよく承知していた。なぜなら、当時の13州(邦)は緩やかな連合規約というもので結ばれており、その規約の改正はすべての州の合意によらなければできないことになっていたからである。ゆえに、フィラデルフィアコンヴェンションは、まさに古典的な語法通りに、「正式・正規ではない」会議だったのである。
同時に、マディソンたちは、中世から近代へと時代が移行する中で、「正式・正規ではない」コンヴェンションが、ある種の正統性を持ちうるということに気づいていた。そのことを象徴する事件は、何といってもイングランドの名誉革命であった。この革命を起した人々は、当初みずからをconventionとよんでいたが、ウィリアムとメアリーを即位させるとParliamentと称することにしたのである。つまり、名誉革命とは、「正式・正規ではない」コンヴェンションが、「正式・正規である」議会を生んだという意味で、画期的な事件であったのである。
しかし、コンヴェンションがそのようなある種の正統性をもつためには、やや逆説的であるが、(単なる集会や会議という意味ではなく)この言葉に「正式・正規ではない」という意味自体が込められてなければならない。では、それはいつ、どこに由来するのだろうか。イングランドの歴史の上では、清教徒革命の後クロムウェルが一部の議員たち(長老派)を追い出した時に開かれた議会が「強行された議会」あるいは「不完全な議会」として認識され、conventionとして言及されていると記録が残っている。つまり、コンヴェンションという言葉が、欠陥ある議会という意味で使われているのである。しかし、この語法は、そもそもはどうやらスコットランドから来たものであるらしい。スコットランドでは、国王の命なくして開く議会として、conventionなるものが、すでに16世紀半ばには確立していた。そして、清教徒革命の時、スコットランドはイングランド議会と同盟をむすびそれを支持する。そこで、「不完全な議会」という意味でのコンヴェンションという言葉の使い方がイングランドに輸入されていったらしいのである。
冒頭で書いたように、コンヴェンションという言葉には、慣習とか慣行という意味もある。慣習とか慣行とは、文書化されたり明示されているわけでもないのに、どういうわけかそれにしたがってしまうような何か、である。慣習とか慣行という意味でのコンヴェンションも、その力の源泉はまさに「正式・正規ではない」というところにあるのである。
この項J. Franklin Jameson, “The Early Political Uses of the Word Convention,” The American Historical Review, vol. 3, 1898, pp.477-87 に多くを負っている。