大先生たちとRedwood Cityでメキシカンを立ち食いする
スタンフォード大学のフーバー研究所でセミナーをやらせていただいた。名誉なことで、しかも久しぶりの英語のプレゼンだったので、かなり緊張した。前日はホテルに缶詰状態で英語のパワポ作り。昼も夜もルームサービスで食事を済ませ、気がついたら12時間以上かかった。日本にいた共同研究者の荒井君は、彼からすれば「なにをいまさら」「そんなこともわかんないんですか」というようななりふり構わないボクからの問い合わせメールの殺到に、閉口した様子であった。それでも辛抱強くひとつひとつ教えてくれて、助かった。
セミナーの当日、聴衆は少なかったが、フェアジョン先生とワインゲスト先生が目の前に並んでどてんと座っておられて、正直ビビった。彼らは頭の回転が異常に速い。考えがいつもわれわれ普通の人の2歩か3歩先を行っている。こちらも緩急をつけたevasive maneuverをいろいろ用意したつもりだったのだが、それでもやっぱりいろいろなところでシッポをつかまれてしまった。もちろん、とてもためになるコメントも頂きました、ありがとうございました。
さて、セミナーのあとランチへ連れて行ってくれるということになっていたので、ボクはてっきり大学のファカルティークラブにでも行くのかと思ったら、メキシカンに行こうということになった。フェアジョン先生が運転してくれて、同乗者はボクとワインゲスト先生と共通の友人の4人。知っている人は知っているが、フェアジョン先生はフットワークがとても軽く、特に食に関してはおいしいものなら時間をかけてでもどこへでも追いかけて行く。今回も、スタンフォード周辺のメキシカン料理店は眼中になく、はじめからレッドウッドシティーまで足を伸ばすつもりでいた。
レッドウッドシティーは、スタンフォードから車で20分ぐらいの、メキシコ系の人々が多くすんでいる町である。エルカミーノ街道をはさんで西側にはアサトンという高級住宅街が広がっているが、東側には庶民的で安い店がいっぱいならんでいる。その中でも、われわれが目指したのは、トラック(つまり屋台)の店。先生は、運転しながら「今日はいるかな・・・いるとしたら、あそこが一番おいしいんだがな・・・」とつぶやいている。ボクは、よくもまあそういうB級、いやC級グルメ店までおさえているな、と感心していた。
で、ありました、ありました、その店。なんと廃業したガソリンスタンドの敷地にトラックを引き込んで、商売をしている。手作りの小さめのトーティアが、先生のお気に入りの理由である。そして、牛タンとか内臓とか、これまでボクが食べてきたメキシコ料理店ではお目にかかれないtacosメニューが取り揃っている。ボクは先生と同じものを4つ注文した。座るところはなく、みんなで立ち食い。先生が全部払ってくれたのだが、飲み物4本を含めても、20ドルもしない。「これならフーバーに付けるまでもないか」、「いや、付けようと思ったって領収書をもらってないぞ」、「どうだ、マサル、すごい歓待だろう、アハハハ」などと、会話が楽しく続いた。
その帰り道、フェアジョン先生はワインを買いたいと、どうやら行きつけらしい専門店に立ち寄った。そうしたら、そこで、フェアジョン先生もワインゲスト先生も、感謝祭が近いということもあって、それぞれ何百ドルというほどのワインとシャンパンを買い込んでいった。この大胆な買い物の仕方も、とても印象的だった。
高かろうが安かろうが、屋台だろうが専門店だろうが、おいしいもの、よいものにとことんこだわりをもつこの大先生ふたりの姿は、セミナーでの彼らの鋭いコメントと同じぐらい、ボクにとって刺激となった。