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(続)一期一会

ずいぶん前に、レストラン版を書いたが、今度は「一期一会:人」バージョンを書いてみたい。歳をとればとるほど、一回しか会っていないのに、忘れることのできない人々が増えてくる。ボクの場合、嫌な想い出は記憶から早く遠ざかっていくようで、ボクの人生の中で忘れることのできない人々は、とっても素敵な人々が多い。
まずは、結構最近だが、ふとした偶然から出張先のホテルで朝食を一緒にした女性の話。すれちがうと誰もが振り返るようなブロンドの美しい方で、正直いって同席しているだけでドキドキしてしまった。で、その方の趣味は、旅行だそうである。仕事に疲れると2週間ぐらい休みをとって、どことなく出かける。もう世界中何十カ国と回っているらしい。そして旅行で何をするかというと、何をするわけでもない。宿泊先のホテルから当てもなく歩き始め、午前中はほとんど「どの店で昼食をとるか」を決めるためだけに、ぶらぶらするのだそうである。そして気が向けば同じところに何泊もするし、気が変われば次の目的地を選んで移動する。結婚する気などもちろんないし、ボーイフレンドもあえて作らない。若いのに(あるいは若いからこそ、か?)、現代社会でindependentに生きていこうという女性の強い意志を見せられて、魅了というか圧倒されてしまった。
次は、もう10年ちかくも前に、カナダから日本までの飛行機の中で隣り合わせた紳士。インド系の落ち着いた人で、電力関係の仕事に就いているとのことだった。出張で日本にはじめていくというので、公衆電話のかけ方(当時は携帯などなかった)や、成田から東京までの交通手段などについて教えることから話しが始まった。実は、その後は何についてしゃべったのかよく覚えていない。ただ、どちらもプライベートな部分に深く入り込まないながらも相手と真摯に接しようとし、しかもそのことをお互いappreciateしながら、さらにお互いがappreciateしているということをお互いappreciateしながら・・・、心地よい会話が続き、気がついたらあっという間に日本についていたという感じだった。節度をもって交わす他人との会話が人生を豊かに送る上でいかに重要なことであるかを、そのとき思い知らされた。
最後は、20年以上も前のこと。大学時代にバックパック旅行をし、ある事情でアメリカ北東部のニューロンドンという小さな町のあるカレッジにたどり着いた。そこで出会ったのは、そのカレッジで日本語を教える日本人の先生。背は小さかったが、口ひげをはやし、黒っぽいシャツをうまく着こなし、英語がぺらぺらで、とてもかっこよかった。残念ながら、その人の名前は聞いたのにもう覚えていない。もしかしたらいまでもそのカレッジで教えているのかもしれない。しかし、本当に大げさでなく、この人との出会いは、ボクの人生を変えてしまった。この人と出会ったことで、それまで大学を卒業したら日本で就職し日本で暮らすことを当たり前だと思っていたのに、そんな人生の送り方がまったく当たり前ではないのだ、ということに気づかされたからである。
国木田独歩の短編小説に「忘れえぬ人々」というのがあるが、そこで描かれているように、人生の中で出会った素敵な人々が忘れられないのは、出会ったときの風景や文脈がまざまざと自分の記憶に刻み込まれているからである。