Ipodの微妙
このあいだもチラリと書いたが、Ipodをよく利用するようになった。CDを移すのに、時間がかかり、結構めんどうくさい。でも、いろいろな作業の片手間にちょこちょこやって、ようやく400曲以上を登録した。
このあいだ調べたところでは、いちばんよく聴いている曲はストーンズのJiving Sister Fannyであった。あと、同じくストーンズのHonky Tonk Women、キャロル・キングのTapestry、セロニアス・モンクのBlue Monkと続き、おなじみジョニ・ミッチェル、ボブディランなども上位を占め、意外にもベートーベンの弦楽四重奏曲とかワーグナーの序曲集とかクラシックも善戦していた。
Ipodを身につけるようになって、自分自身の中で、時間の感覚が変った。
以前、駅のプラットフォームで次の電車が来るまで3分もあると、すごく長く感じた。しかし、3分というと、実はどんなCDの1曲よりも短い。電車を待つ間に1曲をまるごと聴き終わることはまずない。それから、東横線の終点から終点、つまり渋谷から元町・中華街まで乗ると40分ぐらいかかるのであるが、これでもアルバムひとつを演奏するのには時間が足りない。いかに普段、自分が生き急いでいるかがわかる。
もちろん、好きな音楽を好きな時に聴けるというのは、とてもありがたいことである。ボクの場合、耳栓のように中にはいる小さなイヤホンを使っているので、音漏れするようなこともなく、まわりに迷惑をかけていることはない、と思う。
しかし、その一方で、Ipodを愛用することには、マイナスの部分もあるかな、とも思う。
まず、Ipodを利用するようになってから、家に帰って静かに音楽を聴くことのありがたみが減ってしまったような気がする。前は、家に帰ってから「さて今日は何を聴こうかな」と考えるのがささやかな楽しみであった。しかし、帰りの電車でもずっと好きな音楽を聴くことができるようになって、家であらためて何かを聴こうという気がなかなか起こらない。これは、とっても寂しい。
それから、Ipodで音楽を聴いていると、ボクの場合困ったことに、膝とか踵とかが自然と動いてしまう。つまり、しらずしらずのうちに身体が調子をとっているのである。これは外からみるとどうもみっともない、という気がする。「見ろよ、アイツ、年甲斐もなく、ノリノリだぜ」などとささやかれているのではないか、と心配になる。もっとも、Ipodを聴いているボクには、当然のことながら、そんな陰口は聴こえてこない。そうそう、Ipodには、他人からの眼線に対して、鈍感になるという効能もあるように思う。
先日、はじめて音楽ではなく、落語のCDを一枚入れてみた。古今亭志ん生の「あくび指南」、「まんじゅうこわい」、「強情灸」が入っている一枚である。ボクとしては、リラックスするためにいいかなと思ったのであるが、これは失敗であった。落語のCDを電車の中で聴くのは、かなり勇気がいる。しらずしらずのうちに、にやにやしてしまうのではないかと心配になり、リラックスどころか、歯を食いしばって聴かなければならないのである。