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一期一会

1回しか○○したことがないけれど忘れられない××。
人生も長く生きてくると、こういうもののリストが結構増えてくる。
今日は、ボクが一度しかいったことがないけれども、忘れられないレストランを二つ紹介したい。
ひとつは、カリフォルニアのモントレーにある「Inn at the Spanish Bay」。もう10年以上も前のことだが、ここで食べたコース料理は、一生忘れられない味となった。モントレーは、ボクの通っていたスタンフォード大学から車で3時間ぐらいのところにある町で、ゴルフリゾートとして全米でも有名である。数あるレストランの中で、たまたま迷い込んで食べたのが、このInn at the Spanish Bayのクラブハウスであった。それまで貧乏な院生だったので、ほとんどコース料理などというものを食べたことがなかったが、今思えば、そのときは博士号をとったばかりで、多いに散財しようという気になっていたのであろう。ゆったりとしたソファーのような椅子から、大きな窓ごしに波が打ち寄せるところが見えて、ロマンチックというよりはゴージャスという感じであった。それは、ボクが一人前の大人になってはじめて経験したちゃんとした食事といっても大げさでないかもしれない。なかでも特に印象に残っているのが、真ん中あたりに出されたイカ墨リゾット。オニオンと香草とチーズの風味で臭みが消え、ライスをトロリとさせている食感が絶妙であった。デザート(なんだか覚えていないのだが)もとびきり美味しかった。実は、最近モントレーに住んでいる人から便りを貰って、当時の感動をとても懐かしく思い出していたのである。
さて、もうひとつの忘れられない店も、カリフォルニアにある。それはサンフランシスコ郊外のサウサリートという町にある、Angelinoという小奇麗なイタリアンの店。地元のおなじみさんばかりで、店のスタッフも客同士もみんな知り合い、という感じの店である。ボクはここへはほとんど偶然に入ったのであるが、そこで食べたラヴィオリはもう一生忘れられない味となった。中はリコッタチーズ入りで、ソースはボルチーニマッシュルーム入りのソース。あんまり美味しかったので、ボクは、何かのついでにフロアーに顔を出したシェフをみつけて声をかけて、その作り方を尋ねてしまった(←この辺が、なんともボクのずうずうしいところである)。「あの~企業秘密でしょうけど・・・ご覧の通りボク日本人なんで・・・けっして商売敵になろうなんて思ってないんで、教えてもらえませんかね」。そしたら、白髪の人のよさそうなシェフは、親切に教えてくれた。「コツは、マッシュルームソースとトマトソースを別々に作って、最後に合わせるんだよ」。それ以来、この作り方は、我が家では「アンジェリーナ風」と呼ばれ、さまざまなパスタ料理に使われている。
旅先でいくレストランはもちろん別だが、身近にある良いレストランの重要な評価の基準は、「いついっても美味しい」という安定性にある。野田岩の白焼き、神田まつやの海老天ぷら、アントニオ(渋谷)のVeal Parmigiana、代々木上原○○の焼き鳥、自由が丘丸栄のヒレカツ・・・これらは、毎回期待を裏切ることなく、そのたびごとに、一期一会を感じさせてくれる貴重なお店である。