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兎と亀の政治学的会話:橋下さんの正念場について

兎:維新の会の政治塾が、すごい人気だね。
亀:君も応募したのか?
兎:まさか(笑)。しかし、知事の座をかなぐりすてて市長選に勝ち、塾を立ち上げ、それで今度は船中八策を発表する。なんか、勢いがあるね。
亀:うーん、どうかな。むかし誰かが、革命とは革命的であり続けることであると定義していたが、「勢いがある」というよりは「走り出して止まんなくなっちゃった」という感じだな。
兎:止まんなくなっちゃうって、喧嘩っ早い人に多い行動だよね。
亀:そう。よくいわれるように、あの人は喧嘩の仕方をよく知っている。その意味では、卓越した政治家なんだよ。政治というのは、勝ち負けを決める世界だからね。
兎:でも、橋下さん自身は、よく既存の政党とか政治家とかを敵にして、自分がアウトサイダーであることを強調するよね。
亀:いやいや、彼こそ、古典的な意味での政治家だよ。で、そこんところは、民主党に多い、なんとか政経塾出身の政治家たちとまったく逆なんだな。彼らは、政治じゃなくて、政策を語りましょうと、よくいうよね。政治は泥臭くて悪いもの、政策はスマートで意味のあるもの、という線引きをして。しかしね、今の民主党のていたらくは、政策の行き詰まりじゃなくて、政治の行き詰まりが原因なんだよ。いかにいい政策を構想したところで、それを実行する政治の力が備わってなければ、ただの紙切れに終わっちゃうんだから。
兎:橋下さんが人気あるのは、彼のヴィジョンとかアイディアじゃなくて、いっちゃえば、腕っぷしの強さってことかい?
亀:間違いないね。だって、今度の八策なんて、憲法を改正しなきゃできない首相公選制とか入っていて、政策パッケージとしては点のつけようがない代物だよ。ただ、自分は「こんなに大胆な提案ができるんだ」という政治的メッセージを送っている。
兎:でも、それはそれで、意味のあることだよね。実行力がある政治家には、やはり多くの支持者がついていくんじゃないかな。
亀:さあ、そこだな、微妙なのは。たしかに、腕っぷしの強さにあこがれる人は多いと思うが、そういうのを嫌だという人も、世の中には多いよ。
兎:なるほど。結構そういう反応って、生理的っていうか、本能的だから、どうしようもないね。
亀:それにね、このところ、彼が正念場にたっているなあと思えることが目立っている。たとえばね、この政治塾だが、たしかに表面上は、彼の人気はすごいな、と思わせる面もあるけども、考えようによっては、「そんなに素人ばっかりで政党って立ち上げられるのか」という不安を多くの有権者の意識の片隅にかき立てていると思う。
兎:そういえば、一般の人からの公募を呼びかけなければならないってことは、裏返せば、まわりに優秀な人材がそれほど集まっていないってことを暴露しちゃっているようなもんだね。
亀:それにあの首相公選制ね、あれもちょっと危ういと思う。
兎:首相公選制は、「ひとりのリーダーを選ぶ」制度だね。
亀:その通り。ところが、議院内閣制というのは、基本的には「政党を選ぶ」という制度なんだよ。
兎:そんな中、彼は、国民は政党じゃなく首相という一人の個人を選ぶ方がいいに決まっている、と主張しているわけだ。
亀:しかしね、その主張には、もしかしたら橋下さんが気づいていない、いくつかのメッセージが埋め込まれてしまっている。たとえば、「オレは、いまの政党なんか信用するもんか」というメッセージ。ま、これはいいかもしれない。それに同調する人も多いだろうからね。しかし、その一歩先、ほんの一歩先には「オレは、結局、組織というものが信用できないんだ」というメッセージも垣間見えちゃってる気がするんだな。
兎:そういえば、彼、弁護士出身だったね。弁護士って、基本的には、自分ひとりだけで意思決定ができる職業だね。
亀:こうした印象は、いまのところは、多くの人にとってはまだ脳裏の無意識の中にあって顕在化しているわけではない。ただ、彼の行動をこれからさらに観察していく中で、それらがしだいに具体的に意味をもつようになってくることは、十分考えられると思うよ。