Stephanie Nolen
カナダの全国紙であるGlobe and Mailは、世界各地に特派員を送り続けている、いまでは希少なメディアのひとつであるが、その記者Stephanie Nolenさんのお話をラジオで聞いた(CBC “Ideas” Nov. 25)。彼女は、アフガニスタン、イラク、コンゴ、ルワンダなど、数々の戦争や内戦などをカバーし、優れたジャーナリストとして何度も表彰されている。
その番組(ジャーナリストを目指す大学生を対象にして行われた記念講演 “Dalton Camp Lecture” の録音)は、ジャーナリズムの心構えを自分の経験に則して語るというものであったが、そこで語られている経験はハンパではなく、圧倒的な説得力をもっていた(日本で、質問も取材もせず、政治家の言ったことをただただパソコンでメモることがジャーナリズムだと勘違いしている人たちの心構えや経験とは大違いである)。たとえば・・・
ジンバブエでは、いつも不正な選挙をやっており、野党支持者に対する暴力的弾圧などを伝えようとする外国人特派員も、いつも危険にさらされていた。2008年の大統領選挙が始まったとき、Nolenさんは、最初、どうせ同じ不正が繰り替えされるだけと思い込んで現地に行かないことにしていた。ところが、選挙の数日前、ヨハネスブルグの彼女のオフィスにファックスが届き、選挙管理人から正式な取材許可がおりることが知らされる。それでは、と、行ってみたところが、なんと、彼女は歴史的事件を目撃するだけでなく、歴史的事件を作る人となる。選挙管理人たちが勇気をもって彼女に本当の選挙結果を伝え、彼女はその結果をただちに、つまり政府が結果を改ざんしようとする前に、Globe and Mailのウェブサイトにアップロードして世界に発信したのである。このことが、それ以降のムガベ大統領による独裁を大きく揺るがせることになった。
あるいは、コンゴの内戦の話。女性に対する性的暴力が武器であることを取材にいこうとしたところ、現地の援助機関の人たちは「会いに行った所で、誰もあなたに話しをするわけないでしょ」と諭す。それでも、Nolenさんは「私が行かなければ、(しようと思ったって)私に話しをすることはできない」と、ジャングル奥深くへと入っていく。ガイドが用意した建物で「誰も話しをしてくれないとすると、さてはて、どういう記事を書けばいいのだろうと」と考え込んでいると、そこに4人の女性が現れる。「あなたが私たちに起こった話しを聴きたいと、聞いてきた」という。木に一ヶ月のあいだ縛り付けられ、7−8人の兵士たちに毎日レイプされ続けた16歳のアンニャ。自分の夫が銃口を突きつけられるなか、10人の政府軍兵士にレイプされた55歳のイファ。7ヶ月になる自分の子供がすぐそばで泣き叫ぶ中、棒と銃口でレイプされた21歳のシャミ。自分の義父の上に乗っかれと命令され、その上でレイプされた52歳のレオニ・・・。コンゴのどの村へいっても、こうした話しを女性たちが語り、語り続け、Nolenさんの3冊のメモ帳はたちまちいっぱいになる。雑誌の切れ端や航空券チケットの裏にまで、話を書き留める。なぜ、女性たちはこれほどまでに、語したかったか。「それは、私が、彼女たちに話しを聞きたいといった、最初の人間だったからである。彼女たちには、警察もない。裁判所もない。政府もない。」
Nolenさんは、女性の方がジャーナリストに向いていると断言している。それは、世の中に起こっていることの半分は女性が関わっているが、女性には女性にしか打ち明けない真実があるからである、と。その通りだと思う。
彼女の講演を聴くと、いったいジャーナリストは自らが抱える「怒り」をどう処理するのだろうか、と誰もが思う。しかし、彼女はその疑問に対する素晴らしい答えを、質疑応答の中で述べていた。興味がある人は、どうか彼女の講演を聴いてみてください。