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2010年02月20日

談志師匠のマクラのように語る

なんかねえ、新しいもの、好きになれないんですよ、この頃。ぜんぜん。ま、歳とってきたっていうのも、あるんですけどね、うん。うち帰ると、古いものばっかり見たり、聴いたりしてんの。ほら、ユーチューブっての、あんだろ? あれでね、うん、ダイマルラケットとか、いとしこいしとか、見る、うん、見ちゃうんだな、これが。この前は、コント55号にはまった。見出すととまんないよ、あれ。まちがいなく傑作ですよ。よくもまあ、このネタでこんだけ引っ張るよねって、涙流して笑いながら、感心して見てるわけ。うん、そう、古いよー、オレ。もう、だって、もっと古いんだって見ちゃうんだから。素浪人花山大吉って、知ってる?え、知らない?オカラの旦那?あの近衛十四郎と品川隆二の掛け合い。関西のノリじゃない江戸前のっていうのかな、ボケとツッコミのひとつの典型だな、あれは。むかしはねえ、ああいう品のいいコメディーがちゃんと成立してたんですよ、日本でも。それがなくなっちゃったねぇ。吉本の影響かなんか、知らないですけどね。
ええとさあ、それからさ、新しいスポーツもねえ、好きになれないんだな、やっぱり。オリンピックオリンピックってさわいでっけど、なんだあの、カーリングっつーの。あれは、スポーツなのかね。あれがスポーツなら、メンコだって、サケ蓋だって、みんなスポーツになるじゃねーか。メンコなんか、いまの若い人はやったことないから分かんないかもしれないけど、結構体力つかうんですよ。サケ蓋だって、ねえ、え?サケ蓋ってなんですか、だって?まあいいよ、別に分かんなきゃ分かんないで。別に全員に分かってもらおうと思って、ブログ書いてるわけじゃないんだから、こっちは。
ええと、まったく、うん、それからそう、フィギアスケート。あれさあ、アナウンサーが叫んでたぞ「会心の演技でした」って。なんだそれ。芸術点とかって、それはアートの世界でしょうがぁ。オリンピックっていうのはスポーツの祭典だったんじゃないの?いつからアートの祭典になっちゃったんだよ。
それから、あのスノボってのも、どーも気に入らないね、うん。なんでさ、あれ、競技中に、うしろででっかい音で音楽流さなきゃいけないわけ?自分たちだけの自由なカルチャー持ってますっていうのが、ガンガン前に押し出されてる感じがする。うん、わざとらしく。ぃやっだねぇー。カルチャーが違うっていうこと主張したいんだったら、オリンピックなどというメインストリームにのらなきゃいいんだよ、最初っから。だからさ、あのナントカいう勘違いした若いやつがでてきちゃうんでしょ。
あのね、これも古いけどさ、ボブディランにね、有名な言葉があるんですよ、A hero is someone who understands the responsibility that comes with his freedom. 別にオリンピックに出ないっていう選択肢だってあったんでしょ?そう、つまり出てくださいって請われても、いいっすって断れたんでしょ?その方が、ずーっと自分を貫くことになったし、ずーっとかっこ良かったと思うけどね、オレは。

2010年02月12日

ある気まずい午後

先日、行きつけの横浜スタジアム前のスターバックスに入ったら、お気に入りの窓側の席が空いてなかった。とっくにお昼過ぎで普段ならガラガラなはずなのに、外が雨模様だったせいかもしれない。仕方なく、ボクは店の一番奥の方の席に陣取ることにして、勉強を始めた。
なぜボクが窓側が好きかというと、明るいからである。はずかしい話だが、最近ボクは目がすっかり悪くなって、太陽の自然光が入ってくる場所でないと、小さい字が読みにくいのである。
というような事情があるもんで、ボクは勉強を続けながらも、窓側の席が空いたらいつでも移動しようと、それとなく様子をうかがっていた。しかし、その日に限って、なかなか空かない。
そうこうしているうちに、ボクのすぐ隣のテーブルに、ひとりのオジイちゃんが座った。お洒落で、あか抜けている。二言三言、若い女性店員さんと、会話さえかわしている。気負いも気後れもなく、若い女性と会話すること自体、この歳の男性にしてはめずらしい。「やるじゃん、オジイちゃん」と、ボクはひそかに感心していた。
店では、その日、古いジャズがずっと流れていた。ほとんどが、ボクも聴いたことのある心地よいメロディーばかりである。そしたら、驚いたことに、オジイちゃん、そのひとつひとつを英語で歌い出すではないか!それも、低音で、ハーモニーをつけるようにして!ほんの小声だから隣にいるボクにしかきこえなかったが、見事にジャズになっている。・・・なんだ、この人。横浜でずっとバンドで演奏してきた人なのかな。カッコいいなあ、と、ボクは思わずその鼻唄に聞きほれてしまった。
さて、しばらくして、窓側の席がようやく空いたことに気づき、ボクは席を移ることにした。ただその時ボクは、隣のオジイちゃんに「あなたの鼻唄が気になるんで、席を変えるんですよ」というメッセージが伝わってしまうのは嫌だな、と思った。にっこり笑って「お上手ですね」とか、「ボクもジャズ大好きなんですよ」とか言ってから移動しようか、とも考えた。でも、むしろそうする方がわざとらしいと受け取られるのではないかと思い返し、結局何も言わないで、荷物をまとめて移った。
窓側の席にうつってからほどなくして、ボクの肩をポンと叩いて、オジイちゃんが通り過ぎていった。「あっちの席に、傘、忘れてますよ。」突然肩を叩かれた上に、席を移ったという後ろめたさがあったせいで、ボクは「あ、はい、ありがとうございます」とどぎまぎしながらいうのが精一杯であった。もちろん、彼は、ボクの方を振り返ることもなく、そのままさっそうと店を出て行ったのであった。