Douglass North先生
ノーベル経済学賞を受賞されたノース先生が早稲田を訪れた。
成田で出迎えたのは、ボクであった。
80歳をとっくに超えていらっしゃるのに、まったくそんなことを感じさせない。
「すこし空港でお休みになってからいきますか、それともすぐにホテルの方へ向かいますか」と尋ねると、「いや、すぐに行こう。あとをついていくから、さあどんどん行ってくれ」とおっしゃる。で、タクシー乗り場まで行き、タクシーに乗った。エレガントな奥様が同行されている。
ボクはノース先生と10年ほど前に一度だけ、言葉を交わしたことがある。真摯にボクの質問に答えてくれたので、そのときボクはとっても感激した(このことについては『制度』のあとがきに書いた)。で、そのことを話したら、それをきっかけにして会話が弾むようになった。共通の友人や知り合い(ボクのかつての先生たち)も結構多く、話題が尽きないうちになんとかホテルまでたどり着くことができた。
で、その次の日からの彼の行動といったら、本当にすごかった。
やはり超一流の人は違う、ということをまざまざと見せ付けられた。
まず、どこからわいてくるのだろうという体力。時差ボケなどまったく影響なかった。
次に、これもどこからわいてくるのだろうという知的好奇心。どんなささいな、学問と関係のない話にも、ちゃんと食いついてきた。
それから、底抜けの明るさ。宴席では、大きな声で笑い、人の肩をぽんぽん叩いてはしゃいでいた。
そして、最後に、頭がさがるほどの気配り。院生たちのポスター発表をひとつひとつ回って、じっくり耳を傾けコメントしていた。もちろん、自分がそうすることでいかに若い研究者たちが励まされるかを自覚してのことである。その姿には、ジーンときた。けっして偉ぶらないで、何かにつけ「君の意見を聴こうじゃないか」とおっしゃっていた。そういえば、講演会場で、ボクが「先生の意見には大方賛成なんですが・・・」と質問を切り出したら、間髪をいれずに「意見が一致しないのはどこなのかね」と逆に催促されてしまったのには笑った。
今回の来日中、かなり個人的なお話をうかがえるまで、親しくさせていただいた。
本当に光栄なことである。ノース先生自身の了解をとってある範囲で、いくつかエピソードを披露すると・・・。
まず、先生は、朝ごはん以外の食事には、赤ワインを欠かさないのだそうである(自分には4分の1イタリア人の血が入っているのだと、あたかもそのことが正当化の理由であるかのようにおっしゃっていた)。それから、毎日午後4時半になると、バーボンを一杯飲む。大学キャンパスまでは、1マイル半の道のりを、行き帰り歩く。執筆するのは午前中で、普段午後からは読書に費やす・・・。
話を聞いていてつくづく思ったのは、とても規則正しい生活をなさっている、ということであった。
久々に、すごい人、いや本当にすごい人と会った。