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2013年12月03日

午前4時半のショートストーリー

ボクは、いつもそうするように、小走りで廊下を進んでいった。
まわりには、着飾ったひとたち。
ベージュのドレスをきた背の高い女性が、髪につけた白い生花をいじりながら、黒のタキシードの男性にむかって微笑んでいた。彼らを右手にみながら、通りこしたところで、階段から駆け上がってきた長友佑都とばったり出くわした。
相変わらず、元気そうだった。サテン地の青銀色のぴったりとしたスーツを着ていた。
彼は、ちょっとはにかんだように、目線を直接あわせることなく、ボクに向かって「今夜のパーティー、一人だけ、友人をつれてきていいことになっているんだが、こないか」と誘ってくれた。「待ち合わせは、中央駅の駅前にあるペイフォーン(公衆電話)でいいかな。ピックアップするよ。」
ボクは、嬉しさで舞い上がった。これって、他の日本代表にも会えるチャンスか、という思いが頭をよぎり、「ああ、是非、是非」と答えた。
しかし、その一方で、「なんでボクなんだろう」とも思った。
「だれか、他の人を誘ったのに、最後にドタキャンにでもあったのかな。だから彼、あんなに慌てていたのかな・・・」
ボクは、着替えなきゃ、とおもって、急いで自分の部屋に取って返した。すると、ルームメートは、まだ寝たままだった。ボクが、すごいパーティーに誘われたことも知らず、彼は身動きひとつせず、ベッドで横たわっていた。

パーティー会場につくと、長友はすぐさま、誰かを探しはじめた。
そして、遠くにその人物をみつけて、ボクをそちらに連れて行った。
「ほら」
ボクは、その人物をみて、それがイェール時代、寮で一緒だったミコ君だ、ということに気づき、「えええっ」と、思わず声を上げてしまった。
「なんで、長友と知り合いなのか」という疑問が浮かんだが、それを確かめる前に、「久しぶりだなあ、いま何やっているの?」という言葉がついて出た。そうか、長友は、ボクをミコ君と何十年ぶりに引き合わせるために、このパーティーに誘ってくれたんだ、と思った。
ミコ君は、スイス人。イェールでは、経済学者になるため、一所懸命勉強していた。ところが彼は「いまは、ビジネスの世界にいるんだよ」と言った。そりゃそうだな、経済学者がこんなパーティーに来るはずもない。そうか、いまヨーロッパに住んでて、それで仕事の関係で、イタリアにいる長友と知り合いになったのかな、などと、いろいろと連想が、ボクの頭の中でまわり始めた・・・

・・・と、その瞬間、ボクを見つめているもうひとつの視線を感じた。
ボクの息子が、ムックリと両手をつき上半身だけ起き上がって、自分のベッドからボクの方を見ていた。時計を見ると、朝の4時半だった。ありゃ。
ボクは、起き上がって、彼をあやし始めた。
いつものように、ボブ・マーリーの歌を小さくかけながら・・・